The built human being
 

「そもそもどんな喧嘩をしてたんだよ」

「給料の話」

「おま、それだけで家出かよ」

「悪い?」

「べっつにぃー」



会話が途切れ、再び会話が再開されたときにはすでにルベルの家にサブラージ、左都、助手があがったときだった。家の中にあったわずかな助手の荷物はもう存在しておらず、もとの広さを醸し出していた。



「ガンマに聞いたりしたんでしょ?この街の人間とサブラージのこと」



いつものように助手がお茶を用意していると、不意にルベルへ話題をふった。ルベルは戸惑い、相変わらず左都から離れないサブラージを見たが、サブラージは明らかにルベルの視界に映らないよう逃げている。ルベルは目でサブラージを追うのを止めて助手に返事をする。



「聞いた」

「じゃあ話は早い」

「ちょ、ちょっと、その話題はコイツがいる手前でしていいのかよ!?」

「あ、私そういうの知ってるから。そりゃ詳しくは知らないけどさー?」

「お前、本当に一般人かよ」

「しっつれいな!あ、でもサブラージのことは知らない」



パッと見では普通の女の子より少し淡々としているが、一般人かそうでないかと問われれば彼女はやはり一般人なのだろう。裏社会の人間に知り合いがたまたま多いだけの……。



「僕たちがこの前行った研究所は、人造人間の第一研究所なんだよ。他にも研究所はたくさんあるんだけどね。今は全部廃墟になってる」



淹れたお茶をそれぞれに渡し、中央にお菓子を添えて落ち着いてから助手の唇から話が紡がれた。



「中央区は人間で、それ以外は人造人間って三人とも知ってるよね。そもそもどうしてこんな事態になったのか。それはこの防御壁都市の何十年か前に人口が壊滅的に減少したからだよ」

「……減少って、なんでだよ」

「マフィア同士の争い。一般人を捲き込んでしまうくらい激しいものがあったらしい」

「マフィア……」

「話の続きをするよ。人口が減少しては防御壁都市の人間は絶滅してしまう。それを恐れたマフィアのお偉いさんやら役所の人は無くなった部分を補うために人造人間を生成。成功。
今じゃ防御壁都市の七割が人造人間だよ
で、僕が何のために情報をあげたのかって言ったら部屋に泊めてくれたお礼なんだけど、もうひとつ。ガンマの目的」

「ガンマの――」

「ガンマ自身も人造人間だって知ってるよね?」



もともとルベルは目付きが悪い。近寄りがたい雰囲気があった。眼帯が付けられたせいか、その雰囲気は上乗せされる。さらに普段より真剣な顔つきのせいで怒っているようにもみえた。低い声音が更に低くなるがそれでも助手は臆することなく話を続ける。



「ガンマは、人造人間の存在を否定している。造られた人間は存在するべきではないと。防御壁都市は人間のもの。人間によって構築されるべきだって」

「なんでガンマはそんなに人間を優先させるようなことを言うんだよ」

「ルベルに苦い思い出があってマフィアを憎む様に、サブラージが自分の存在と周囲の人を恐怖する様に、ガンマにも何かあるんだよ」



にっこりと笑う助手も、裏社会の人間らしく過去にあるものがあるんだろう。引き摺るほどではないにしろ。

ルベルは圧し黙った。人造人間であっても人間らしく感情を持ち合わせている。ガンマも機械的に動いているのではなく、なにかしら考えて行動を起こしている。他人の害は気にせず。



「ガンマは、何がしたいんだ」

「人造人間の絶滅」



やはり笑みを張り付けた助手。その隣で口元を手で覆って衝撃を受けた様子を見せる左都の真の表情が笑みであることはサブラージと助手だけにしかわからなかった。隠れていたサブラージは顔を下に向けたまま、表情は見せない。



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