漆黒だけの夜空
 

ルベルはあしを撃たれた。伏せていたガンマの速攻した反撃は目の前にあったあしを狙った。膝の上、太股からじわじわと溢れる血。銃弾は貫通していて、近距離からの発砲により、拳銃は壊れた。拳銃の弾層を抜いて本体を棄てたガンマは倒れたルベルを容赦なく蹴る。ルベルは腹部を蹴られながらも持っていた閃光弾を使ってなんとか攻撃から免れる。



「痛ぇぇえ!!」



目を抑えたガンマは怯み、そのうちにルベルはガンマから距離をとった。
ルベルも閃光弾のすぐ近くにいたということで威力が低いものを投げだ。目眩まし程度しかならないだろうが一秒でもガンマを怯ませ、離れることを第一に考えた。自分がこの場で死んでしまえば、復讐を成し遂げることはできない。



「こ、の、野郎がッ!!」

「――くそ!」



頭を手で抑えながらもガンマはルベルを睨んだ。ルベルは足を負傷していて足に負担のかかる武器を使いたくなかった。それどころか上手く立つことができない。
剣を床に突き刺してルベルは拳銃を代わりに掴む。ガンマに発砲するが、ガンマはそれらを回避してしまった。拳銃がガンマの腕や足をかするが、その程度ではたいして動きを止められない。



「勝敗は決まってるぞ!さっさと死ね!」



ガンマが真っ直ぐルベルへとんでくる――。


















「サ、ブラージ」

「……。回収屋、でいいよ」

「ごめん」

「なんで謝るの?」



研究所の前で、サブラージは一人立っていた。ルベルに自分の事を話したサブラージは彼にここで待っていろ、と言われたのだ。ベルデはルベルが心配だと、行ってくれと言われてここにきた。ベルデ本人もサブラージが心配だった。ルベルよりも早くサブラージの事実を知っていたベルデは、彼女をあまり他人として見れなかった。しかし、だからといってそれ以上の者とも思っていない。



「ルベルに話したの?」

「……私の元の子のことは話してない」

「そっか」

「こわいの。奪還屋と回収屋だけど、私の中で奪還屋は大きな存在だから……。罵られるのが、避けられるのが、こわい」

「……」

「だから、私は話したくない。うしないたくないもん……」



体操座りをして丸くなり、サブラージは顔をうずめた。
サブラージの隣にベルデは腰をおろした。顔を見上げて、星が少ないただ漆黒だけが広がる夜空を見上げる。



「でも、私がルベルの傍にいるのは可笑しいよ」

「……どうして?」

「だって、ここはあの子がいる場所……。立場は違えど、私はあの子の居場所を奪ったんじゃないかって。あの子が死んだのは、私が生まれたからで」

「待って待って!どうして自分を責めるの?……た、たしかに紫音は、その、回収屋の事を快く思ってないよ。コリーなんか本当はまだ混乱してるよ。けどみんなが君をそういう目で見てるわけじゃないんだよ」



ベルデはサブラージの背中を十字が埋め込まれていない左手で撫でた。サブラージの考え方が違うのだと、どうしたら伝わるのか悩みながらの手は戸惑っていた。



「僕も、たしかに戸惑うところはあるけど、でも君が邪魔だとか、そんなこと思ってない。君は回収屋、君はサブラージ」

「……」

「みんな生きてるんだから、感情があるんだから、いろんなことを思う」



夜のひんやりとした風が通った。
空は相変わらず黒い。星は増えることもなく、減ることもなく輝く。
サブラージはそっと髪の隙間からベルデを覗いた。ベルデは夜空を見上げている。



「運び屋は、私が人工的に造られた人間だって聞いたとき、どう思った?」

「え?」



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