マフィア嫌い
「この数を相手に勝てると思ってンのかオイ」
「んなのやってみなくちゃわかんねーだろ」
もう一丁の銃を出し、ルベルは戦闘体制に入る。それとは対極的にサブラージはただ突っ立っていた。
ルベルは変に思った。 そしてサブラージは口を開く。
「これは、あなたたちのボスが欲しているんだよね?」
サブラージが慎重に、彼らに聞いた。彼らはそれぞれ肯定を示す。
サブラージはそれを確認してから手に握っている小さな機械に目を移す。 ルベルはまさか、と思って制止の声をあげようとしたが、それよりも早くサブラージが動いた。
「……そう」
呟いて、携帯端末機器を宙に投げた。 緩やかに弧を描くそれは不良の手に吸い込まれた。ルベルはただ呆然と目を丸くしていた。 ルベルがそうしている間に集団はなにか言葉を交わしあってからバラバラになって解散した。
「……ッお前!!」
はっと我にかえったルベルは二丁の拳銃を強引にしまい、サブラージに近付いた。
今まで見せたことがないくらいの恐ろしい形相で、サブラージは一歩後退して少しだけ眉間にシワを刻んだ。
「な、んで渡したんだよ!!」
サブラージの胸ぐらを掴もうとして、一瞬動きが止まった。その手は耐えるように拳を握っている。
「だって……、あんな数敵わないよ」
「んなのやってみなくちゃわかんねーって!!」
「無茶だよ、それは……。ゲームや漫画みたいに、世界は上手く出来てないんだよ?」
ルベルの雰囲気に、表情に、声に狼狽え、サブラージは地面に立つルベル足に顔を向けていた。
いつもの強気は消え、サブラージは出ない声を張った。
「ルベルの強さは、私が一番わかってるつもりだよ。ルベルは強い。私よりずっと強い……。でも、私と戦って負けるときがある。なんでなのか、わかる……?」
サブラージが顔をあげた。ルベルの表情は相変わらず怒りをふくんでいる。だが、そのなかに困惑が混ざっている。
「……そうやって無茶するところだよ。なにも考えないで突っ込むから。」
「じゃあアレはどうすんだよ。お前ならまだしも、マフィアなんかに奪われたまま依頼者に頭下げられるか!!」
「マフィア……、嫌いなの?」
サブラージが何かに気付いたように問うと、ルベルがすぐに返答した。
「ああ、死ぬほど大嫌いだ。滅びればいい。つか俺が滅ぼす」
黒い何かが溢れる。 ルベルはサブラージと目を合わせない。
「……。あの、なんか、憎悪に燃えてるところ悪いんだけど、さ」
いいにくそうにサブラージが目線を小屋や防御壁あたりに漂わせる。
「あれマフィアじゃないよ?」
ルベルの間抜けた声がした。 「未成年を下端でもあんなに雇うわけないじゃん」とサブラージは言う。ルベルは相変わらずきょとんとしていて、サブラージはバレないようにため息をついた。
「知らないの?最近、北区でマフィアに対抗する組織が生まれたんだよ。たぶんさっきの奴らはソレ」
防御壁が周囲をぐるりと囲うこの巨大都市。そこは北区、南区、西区、東区、中央区の5つにわけられ、それぞれにマフィアが裏で牛耳っている。
「そう、なのか?」
「うん。ルベルがマフィアをどれほど嫌ってるか、どうして嫌いなのか、私にはわからないけど……。考えてから行動したほうがいいよ」
「うっせぇ、マセガキ」
いつもの調子に戻ったルベルにつられてサブラージもいつもの感じを取り戻す。
「ねえ、オニーサン。あいつらからアレを一緒に取り返さない?」
「あぁ?」
「取り返したらさっきの続き。私もあのまま見逃すつもりはないもん」
サブラージが両手を後ろに組んで、集団が去っていった方を睨んだ。
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