床に散るガラスの破片
 


「死ねえぇぇッ!!」



叫んで、ルベルは大きく踏み出した。突然の奇襲だったが、ガンマはそれを回避してルベルの攻撃は失敗してしまった。
ガンマは右手に拳銃を握っている。反撃される前に背後にあった机に下がった。ルベルを狙ってガンマが銃弾にねじ込むが、ルベルは机の下に入って机を盾に使った。ルベルのさらに後ろにいたベルデはガンマに発砲。ガンマの銃口はベルデへ変更されて、ルベルが入る前の銃撃戦が再開された。
ルベルは上着の内側に潜ませていた手榴弾を空いている手でつかみ、ピンを抜いてガンマへ投げた。
この手榴弾の威力は低く、ベルデの位置には爆発の影響はない。だがルベルの位置はその範囲内。机を盾にして爆風から身を守った。ベルデにも爆風は届き、彼も机を盾にした。



「ベルデ大丈夫か!?」

「……っ大丈夫!ルベルの方こそ……」

「俺も平気だ。ベルデ、サブラージの所に行ってくれねぇか?さっきいた外にまだいる」

「サ、サブラージって、回収屋の……」

「そうだ。変なことしないようにそばにいてほしい。ガンマは任せろ。あいつのことだからまだくたばってねぇだろうし」

「……」



ベルデは考える様に黙った。
煙のせいで視界が悪く、互いの姿は確認出来ていない。しかしルベルはベルデが手の甲に埋め込んだ十字をなぞりながら考えているだろうことは想像できた。



「……わかった。僕の仕事は印鑑を壊すこと、なんだ。き、北区のマフィアに渡したくなくて」

「……そうか」

「ルベルは壊してくれる?」

「あとで依頼主に謝っとく」

「ありがとう……」



ガラスの破片を踏み潰した音が、ベルデが動いたことをルベルに知らせた。ベルデは去り際にガンマがいるであろう場所に何発かねじ込んで行った。
ベルデが去った直後に煙が濃い部分からゴト、と重い物体が落ちる音がした。恐らくガンマが持っていた拳銃。そしてすぐにルベルではない別の人物のため息がした。



(ッチ、手榴弾も銃弾も避けたのかよ、アイツ)



ガンマの瞬発力に舌打ちをしてルベルは剣を握った。いつでも動けるよう、全身の筋肉に熱を送った。
ジャリジャリと相手が動く。机の隙間から見えるガンマの足を視界にとらえた。煙は開けたままのドアから抜けていき、視界の邪魔にはなっていない。



「クソどもが……!!」



ガンマの怒りを込めた怒声が、彼が生存していることをはっきりとルベルに伝えた。
ガンマの足が、ルベルのすぐ隣になったときルベルは剣をガンマに思いっきりつきだし奇襲した。
ガンマはまさかそう来るとは思っていなかったらしく、緊急回避をするものの左腕に深く傷を負った。



「塵の分際で!!」



後ろに受け身をとりながら後転したガンマは膝をついた状態で姿を現したルベルに発砲した。ルベルは横に避けて、別の机に隠れた。



「近付けねえんじゃ良知が明かねえよ」

「近距離がいいのか屑。のった」

「……はっ!?」



拳銃が鳴り響く音が止んだと思ったら、ガンマの声はすぐ後ろでした。ルベルが振り向く寸前で横腹に衝撃があり、ルベルは背中に机の角を打ち付けてむせた。ルベルは自分を蹴ったガンマを睨み付けると咳を呑み込んで剣を横に振り切ったが、ガンマは伏せて避けた。ルベルはそのガンマを蹴りあげようとした。しかしガンマの方が一枚上手で、拳銃を、近距離であるのもいとわずにルベルへむけて引き金をひいた。

視界に突然入り込んだ血が自身の血だとルベルが理解するのに、時間はかからなかった。



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