運び屋の奇襲
 


「お前、入らねぇの?いつもレディーファーストとかなんとか喚いて入るくせに」

「喚くなんて無神経!オニーサン、モテないでしょ」

「残念だったな、逆ナンされたことあるんだよな。俺!」

「ああー、外見はいいかも知れないけど中身が残念で交際には至らないと。子供ね」

「ガキに言われたかねーよ!!」



ルベルが叫んだちょうどそのあと、コンクリートが弾けた。僅かに遅れて認識したのは銃声。銃弾が飛んできたであろう方向を真っ先に振り向いたルベルは、そこに薄い茶色の髪をした人間がこちらにライフルを向けていたことが分かった。


「……運び屋……」



ネクタイをしっかり締めてスーツを着た男性。男性にしては長い髪を後ろで一つに纏めている。右手の甲には痛々しく十字架が埋め込まれていた。その十字架はルベルがポケットから吊るしているものと全く同じだった。
強い光を宿したルベルたちとさ少し違う緑の眼が彼らをしっかりと視界に入れる。
運び屋であるベルデだ。



「テメ……、なんでここに……」

「目的はきっと同じだよ、ルベル」

「印鑑か。その印鑑ってなにかそんなに重要なのか?」

「重要、だよ」



ルベルの問いに答えたのはサブラージではない。ベルデだった。ルベルは警戒して片手剣の柄を強く握った。それに反してサブラージは相変わらずスキだらけ。



「きっともうすぐルベルにとっても重要なものになる……と思う……」

「ハッキリしろよ」

「だっ、だってセリフ考えたの黄果だし……っ」

「知るかよ!」

「……、でもルベル、気付いてると思うよ。本当はわかってると思うよ」

「何が」

「気付きたくないから、逃げてるように僕は見える……」



ベルデが手の甲に埋め込まれた十字架に触れた。つー、と中指で無機物をなぞるその仕草にサブラージは一歩ひいた。



「……やっ、ぱり……。あんたたちは知ってるの……?」



控え目にサブラージはいつもの威勢をどこかへ忘れていったように聞く。瞳がグラグラと揺れて彼女のルベルに似た色の眼は弱々しかった。
サブラージの質問に頷くベルデ。
ルベルは完全に置いていかれている。彼らは何を知っているのだろうか。自分は何を知りたくないのか。ルベルはそんなことばかりで、他の情報が頭に入ってこなかった。



「なんで、知ってるわけ……」

「そ、それは……。逆に聞くけど、貴女は隠す気があるの?」

「ッ!!」

「……一番最初に気が付いたのは殺し屋の紫音。次に僕……。あの子とは家族のように仲がよかったし、信頼も互いにしてたはず……!……だから、わかるよ。僕たちは、目を背けないから……」



ベルデはライフルをしっかり両手で持つ。サブラージはやっと動揺から開放されたのか、「そっか……」と呟くように答えた。



「……あなたたちから見て、私はどう、なの?気持ち悪い?殺したい……?」

「僕個人は……そんなことない、よ。ただ、変だなって」

「気持ち悪いのと、何が違うの?私を庇ったって、なんの意味もないよ。罵りたいんなら……」



サブラージの発言に続きはなかった。研究所からガラスを叩き割る音がしたのだ。音はそこまで大きくなかったが、小さくもない。ぼうっとしていたルベルはベルデへ声を張って半ば怒声のような声を出した。



「おい、誰だあれ!!紫音か!?」

「っえ、ぼ、僕だけのはず……あ、もしかして」

「なんか心当たりが……っておい、話聞けよ!!」



ベルデはルベルが話している途中であるのにライフルを構えたまま中へ突入してしまった。



「……ッチ」



舌打ちしてルベルも中へ入ろうとしたが、突っ立ったままのサブラージを見て彼女の右手を掴んだ。



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