情報屋
「私、助手が情報屋だってずっと前から知ってるから平気だよ!――ここにいる二人が奪還屋と回収屋ってこともね」
ルベルはまるで岩のように固まってしまった。頭の中は混乱して整理ができていなかった。ただ、目の前のテーブルに昼食を並べる左都を目で追い続ける。
「……ど、どういうこと!?」
ルベルの正面に座っていたサブラージは今や左都へ体を向けている。 当の本人である左都と話題をだした助手の二人は涼しい顔をしていた。左都に至っては驚く二人にクツクツの喉から声をもらす。
「……ちょ、ちょっとまって……!まさか、左都って」
サブラージはルベルよりも随分と早く何かに閃いたようで正座を崩し、左都へ一歩近付いた。 左都はサブラージの答えを笑顔で待ち、ルベルはただ無言でいた。
「私の憶測なんだけど、まさかあんたって……情報屋――?」
珍しく焦ったような表情をするサブラージは、すぐに思い付いた仮説を結論から述べた。叫んでしまいそうな衝動をムリヤリ抑え込んだような声。
カランとルベルの持つコップに入った氷が音を鳴らした。
「なんでそうなるんだよ、サブラージ……」
無駄に静寂が続く部屋ではルベルの低音が大きな声に聞こえる。
「だって、そうなるじゃん。どうして左都は死体を見てもなんとも思わないの?短剣を持っていた私を驚かないの?人を殺した私を驚かないの?どうして助手と仲がいいの?どうしてルベルと私が奪還屋と回収屋ってわかったの?――どうして初対面であるルベルの家がわかったの?どうしてここにいるの?」
質問責めにされた左都は相変わらず笑顔でいた。そしてその笑顔でを崩さないままルベルと助手の視線を受けつつ答えをだす。
「サブラージはやっぱり頭がいいなー。羨まし!けど私は情報屋じゃないよ。情報屋の仕事だってしてない。けど助手と同じくらいあの人とは友達。……っていうか私は家族みたいな感じだよ。ちなみに助手とはその人経由で知り合ったんだー」
会って話したことはないけどね、と唇を僅かに動かし、声を出さずに呟いた。助手は左都の背中をポンポンと優しく叩いてから「冷めちゃうから早く食べよう」と昼食をすすめた。
焼きそばを食べていいるときのサブラージの顔はあまり晴れなかった。ずっとなにかを考えるように顔をしかめ、時おりため息を吐く。 それが気になったのか、隣にいたルベルは焼きそばを口から喉に通したあとに問いかける。
「おい、お前がため息つくと気持ち悪ぃからやめろよ」
「どういう意味!?私だって悩んだりするんだけど!乙女なレディなら尚更!」
「ああ゙!?乙女なレディなんかどこにもいねぇぞ」
「うわ!最悪!無神経にも程がある!」
睨み合う二人の間に唐突に鳴り響く着信音。それはルベルとサブラージの携帯電話から同時になったもの。奇妙だった。
「もしもしー、ああ、どうも」
ルベルが珍しく敬語を使って話しながらベランダへ出ていく。サブラージも助手と左都に「ちょっとごめんね」と言って和室の方へ携帯電話を持って言った。残された助手と左都は横目で見つめあったあと、左都が笑った。
「同時ってなに!同時って!あはははははは!」
「左都ちゃん落ち着いてって」
「むりむりむりむり!」
「てか嘘つくの上手いよね。ぺてん師にでもなったら?」
「皮肉?てか嘘じゃないし!」
「どっちにしろやっぱ演技上手い」
「え?もしかして私誉められてる?誉められてるの?」
左都は箸をくわえたまま「ありがとー」と言って助手の頭を撫でた。撫でられっぱなしも気にくわないのか、助手も左都の頭を撫でかえすという異様な格好をしていた。
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