照れ隠しと焼きそば
「あ?んだよ、急に改まってよ」
「……や、あの、その……」
太陽が空の真上から防御壁都市を見下ろしている正午。ルベルがテレビを見ながらソファでジュースを飲んでいると、起き上がったサブラージが現れ、ルベルの前で正座した。
ちなみに助手と左都はキッチンで昼食を作っている。たまに助手の「左手は猫の手!そうしないと指が切れるって何度言わせるの!?」やら「それ強火!中火にするの!」「あー、左都ってば不器用……。次から落とさないように気を付けてね」という声が騒がしく聞こえていた。その度左都が「あーい、ごめんね助手ー」と謝っている。鼻に届く匂いからして昼食は焼きそばだろう。
「ちょっと一言いいたいことがあって……」
サブラージは変な記号の刺青が入った右頬を指で掻いてから太股の上に両手を添えた。 サブラージがもう起き上がることにルベルは心配したが助手曰く、ただ睡眠薬をもられただけだそうだ。副作用として体調不良があるが、気にするほどではないらしい。 左都と同じくサブラージは助手の服を借りていた。一時的にルベルの部屋に泊めただけだが、学校の制服のままでは汚いと助手が二人に服を貸していた。ルベルの服では大きすぎるから助手だ。もともと身長が高い左都でも助手の服は大きい。この中でもっとも小さいサブラージが着ればそれは、ダボダボとしていた。
「あ、ありがと……う」
モゴモゴと小さな声でうつむきながらサブラージは耳まで赤面させた。ソファに座るルベルは一旦間を置く。
「……は?」
「だっ、だから!!」
サブラージが真っ赤になった顔をあげた。そしてまっすぐルベルの瞳を見ながら半ば自暴自棄になりながら叫ぶようにして言う。
「助けてくれてありがとう!恥ずかしいし照れるからもう二度と言わせないでよ!?」
耳まで真っ赤になったサブラージはテーブルに、頭を打ち付けるようにして俯せた。 一方のルベルはぽかんとして、口を開けたまま固まっていた。サブラージが自分にお礼を言うとは、これは悪夢か、とも思い始めていた。
「……、おっ恩は返したからな!?」
「はあ!?ルベルのくせに私が恩を売ったのわかったわけ!?昨日のはカウントしないで!」
「煩えぞマセガキ!俺のくせにって何だよ!!つかすでにカウンターは回ってんだよバーカ!」
「駄目駄目!なし!なしに決まってるでしょ!」
今にも取っ組み合いが始まりそうな勢いで二人は叫び合う。互いに照れて、それを隠しているだけだ。 そこに笑い声が混ざる。
「あっははははは!!面白!なにやってるの二人とも……!ぶっ……ぎゃははははは!!」
片手におぼんをもって左手で腹を抑えながら笑うのは左都。昼食ができたのだろう。おぼんには焼きそばが四つのっていた。四つの焼きそばを片手で持ってくるあたり、左都の腕力はそれなりに高いことがうかがえた。ちなみに体育はほぼ平均くらいの判定だ。
「焼きそば溢さないでね。ごめんねー、少し焦げちゃってて」
「あっれー、私のせいだって言いたいの?助手くん?」
「実際、左都ちゃんのせいだよね?」
「助手のくせに生意気な事を……」
飲み物を持ってきた助手はわざとルベルとサブラージの間に入った。
「恩ってルベルの額の絆創膏と関係することなのかな?」
得意気な笑みを浮かべる助手に二人の目は丸くなった。
ルベルの額の絆創膏――それはサブラージの手榴弾によって作られた怪我だった。怪我といってもルベルは咄嗟に手榴弾を避けていたため、大した怪我ではない。一戦交えた翌朝、サブラージが絆創膏などの軽い治療用具とお菓子を持ってルベルの元へ訪れたのは記憶に新しかった。
「僕だってこれでも一応は情報屋だからね」
「ちょ、左都がいる前でそんな事言って……」
あくまで左都は一般人。左都の親友であるサブラージは焦った。基本的に自分達が裏世界の住人であることは左都を含め、一般人に隠していることだ。
「大丈夫だよ、サブラージ」
「あははは!焦っちゃって!私、助手が情報屋だってずっと前から知ってるから平気だよ!――ここにいる二人が奪還屋と回収屋ってこともね」
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