真実を理解しているか?
 

「保健室……」



暗くて汚ない廊下の奥でルベルとロズは立ち止まった。ルベルがロズに静かにするようジェスチャーで示すとロズはうなずいた。ルベルは耳を澄ます。するとドアの内側から話し声がした。



「……黄果とコリーだな……」

「そうね。突入する?」



拳銃から小銃に変更したロズは銃弾を確認しながら静かな声でルベルに聞く。ルベルは折り畳み式の警棒を伸ばしながら「ったりめーだ」と頷く。

そっとドアに手を添えて静かにスライドさせればドアは開く。
それを確認したルベルは口内の唾を飲んで、勢いよくドアを開けた。



「武器は床に置け!!」



仕切られたカーテンの前にいた黄果とコリーは顔を見合わせて直ぐに武器を落とした。
黄果はもともと白衣に手を入れていたから武器は持っていなかったが、コリーは両手に持っていたトンファーを落とす。

ロズは小銃をコリーに向けていたが、片手に拳銃を持って黄果にも銃口を向けた。



「ルベルじゃないですか。思ったより早いな」

「サブラージはどこだ」

「このカーテンの中ですよ。それにしてもルベルが彼女を大切にする理由がよくわかった。無理もない」

「……は?」

「そうですね、コリー。ですが彼女はこの都市の一部です。事実を知っても、この都市は好きになれません」

「お、おい……なんの話をしてんだよ?」



嫌な雰囲気を感じ取ったルベルは狼狽えた。胸がざわめき、つい先ほどまで落ち着いた感覚とは真逆だった。

彼女とはサブラージのことを指している、そして黄果とコリーの話題は自分に関係があること。



(なんなんだよ、落ち着け俺――、!?)



いつのまにかルベルの目はカーテンに釘付けになっていた。

そして脳裏を過った妹、ユアンの顔――。


どうして、前触れもなく、急に、唐突に、予告もなく?

ぐらりと頭が揺れて重くなった。



(俺は何かを知っている……?一体何を)



立っていられないほどの目眩だった。

「突然どうしたのルベル!?」とロズの焦った声がしたが、ルベルの耳には入って来なかった。

そんな最中、重い銃声と窓ガラスが割れる音が保健室を支配する。外から紫音とベルデが黄果とコリーに撤退するよう呼び掛けている。コリーはトンファーを拾って割れた窓を開けて足をかけた。



「ルベル、貴方は真実を知っても今のままでいられますか?それとも……」



ルベルに近付いた黄果は言葉を途中でつまらせた。コリーの呼び掛けがあって黄果は白衣を翻して窓から逃亡する。



「……ユアン、どうして……」



無意識にその名を呟いた。

暗闇の中で、聞き取った者は誰もいない。

カーテンの中で眠るサブラージも、近くにいたロズでさえ――。









































「情報屋である私が予想するに、もうすぐで問題児が動きます」

「へぇー。てか高らかに情報屋ですって言っていいの?聞かれてるかもしれないよ?」

「僕に抜かりはありません。私のことを一番理解している君ならよくわかってるでしょ?」



電柱と月だけが頼りの夜道、助手とひとつの影が歩いていた。
影はときおり鼻歌を歌って、真面目な話の腰を折っていた。



「ところで左都はいいの?」

「いいんだよ、散歩してるだけだしね」



敬語を止めた影――情報屋の口調は助手と似ていた。静かなその小さな道に着信音がして、助手が反応した。「もしもし」と言ってから電話をしてきた相手と少し話すと電話を切った。



「俺の助手の子飼いの奴らから?」

「そうだよ。ルベルの回収屋奪還が成功したって、張り込みしてた子から」

「そっかー、ま、俺の予想通りでよかったー。予想通りにいかないと不安だからね」

「じゃあもうルベルの部屋に帰るよ。左都が困るでしょ」

「そうだね」

「君はもう寝る時間だから――って、あ、布団干してる?」

「今朝干してそのまんまだよ」

「……」

「だからさー、心配するなら帰ってきてよ」

「嫌だよ。給料の怨みは大きいことをちゃんと理解してないみたいだし」

「減給しちゃうよ」

「高校辞めなければよかったよ」

「ごめんなさい、減給なんてもう言いません」

「ルベル帰ってくるから僕は急ぐね。おやすみ――右都」


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