回収屋の少女に対するそれ
月はだいぶ傾いてきた。
日付が変わった深夜、廃校舎を歩く男女はそれぞれ手に得物を持っていた。 廃校舎の廊下は泥や誇り、割れた窓から入った雑草などがあって実に汚いものだった。廊下に散乱したガラスは足を進める度にジャリジャリと音を鳴らす。
「目、大丈夫か?」
「いやん、心配してくれてるのかしら?」
「……大丈夫そうだな」
ルベルとロズだった。 閃光弾による攻撃は一時的なダメージ。目の痛覚から開放されたロズは自然の成り行きでルベルの仲間と化していた。 実際のところ、ロズは暇だから、という理由でルベルに着いていっている。
対してルベルはサブラージを捜していた。 念入りに何度も教室の中を見てはため息を吐いている。
そもそもどうしてルベルは廃校舎にサブラージがいると断定できたのか。それは、この北区の末端にひっそりと存在する廃校舎はルベルが過ごしたことのある建物だからだ。ルベル一人ではない。サブラージを誘拐していった紫音、黄果、ベルデ、コリーもそうだった。……そして今は亡きルベルの妹、ユアンも。
彼らは独立するまでここで過ごした。紫音と黄果は義理の家族がいたのだが、一日の大半をここで過ごしていた。ユアンは独立せずに世を去ってしまったが、彼らは仲間だった。何よりも大切な、家族のような――。 同じように生き、同じものを食べ、同じ所で眠った。彼らはマフィアの存在を憎んでいた。いつか滅ぼしてやる、という同じ志をもった。
(……それなのに、どうしてこうなったんだ!!いつからズレたんだよ、俺たちは)
ルベルは歯をくいしばり、拳を強く握った。緑の瞳は月の光に反射してギラリと、獣の如く光っていた。
今は彼らとは敵。
互いの志に狂いはないはずだ。
「それにしてもルベル、南区に住んでる私も知ってるわよ」
「何を」
「貴方と回収屋の仲。毎晩のように殺し合ってる貴方がどうして回収屋を助けようとするのかしら?気でもあるの?」
「違ぇよ。……俺だって不思議に思ってるくらいだ。あのマセガキが居なくなれば俺は良いはずなのに、どうして、俺は……サブラージを助けようとしてるのか」
「複雑ね……。思春期みたいよ」
「思春期って……、テメェ!」
「いやーん、怒らないで。ジョークよ」
ルベルが睨むとロズは両手を慌てて顔の前で振った。ルベルは落ち着かせるように息を吐くとロズはタイミングを見てか、続きを言った。 今度は長い睫毛を下に向かせて真剣な表情をしている。
「ルベル自身が気が付いてないだけで感覚が理解しているんじゃないかしら」
「はぁ?」
「例えば……そうね、昔貴方がやっていたスポーツがあったとするわ。野球とか、サッカーとかバスケ。なんでもいいわ。昔は毎日のように遊んでいたのに最近はやっていない……そんな経験ない?」
「バスケならあるな」
「……だからルベルの身長って高いのね……。 そう、それよ」
ぴっとロズは白く長い指をルベルに向けた。
「そのバスケを今からやるって言ったら貴方、できると思う?」
「どうだろうな……。やり方とかあんま覚えてねぇし」
「そうでしょうね。でもやればできるわ。ルベル自身は覚えてなくても、感覚が覚えているもの」
「……つまり、マセガキのこともそうだと?」
「そうよ。でも、憶測だけどね」
ロズは指を戻して、幻想的な夜空とは違う廊下に視線を移した。 隣にいるルベルは腕を組んでサブラージに対し、心当たりがあるかどうか考えていたが1分も経たずに止めてしまった。
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