組織脱退のけじめ
 


「よぉ、さっきも会ったな、ロズ」

「あら、ルベルじゃない。ちょうどいいわ」



ルベルが北区の末端にある廃校舎について、古くなった児童用玄関に足を踏み入れた時、校舎からでてくるロズと数分ぶりの再会をした。
ルベルはロズと遭遇したことで確信を得る。ここにサブラージがいるのだと。



「ねえルベル、お願いがあるの」



月明かりがなかなか児童用玄関に入り込めず、互いの表情はよくわからない。
ロズは自分の髪を手で掬ったあとサラサラと指の間から溢した。



「『お願い』?」



ルベルが眉間にシワを作ったまま聞き返す。ロズはコクリと頷いて水色の瞳をルベルに真っ直ぐ向けた。

風が赤髪と茶髪をなびかせる。



「私と戦いましょう?そして私を倒して」

「――はあ?」



ルベルは気が抜けてぽかんとしてしまった。一方のロズは真剣な表情で冗談を言っているようにはまったく見えない。ルベルは動きにくい口を動かして喉から声を出す。



「テメェの虐められたいっつーM精神に付き合ってられっかよ。俺は暇じゃねぇんだ、忙しいんだよ」

「私ね、さっき組織を辞めたわ。組織にはいったもともとの理由がルベルに会うためだったからね、もう目的を果たしてしまって用がなくなったの。だから辞めた」

「おま、さっき俺に組織に入ったっつったばっかじゃねぇかよ」



ルベルが夜に慣れた目を丸くしてロズを穴があくほど凝視した。ロズにいつものふざけた様子はなく、右手に黒く輝く拳銃を握っていた。ルベルは舌打ちをした。



「確かに言ったわ。でももう辞めたの。これは組織を辞めた私のけじめ」

「……そーかよ」



ルベルは腰に持っていた日本刀を持って鞘から抜いた。
ロズの唇が三日月と同じ形になる。



「ああー、楽しみね!痛覚は私が一番大好きな感覚なのよ!痛いのは辛いけどその辛さがなんとも言えないのよねーっ」

「真面目にやれよロズ」



ルベルが日本刀をロズに向けてニヤリと笑う。



「ええ、もちろんよ」



聞き慣れた銃声が響いた。それが合図。

ルベルは横へ前転して銃弾を避けると直ぐに立ち上がってロズへ真っ直ぐ駆けた。ロズは一発目を外したが気にすることなく向かってくるルベルに何度も撃つ。
だがルベルにはわずかに当たらない。もうルベルと二メートルもなくなると遠距離派のロズはルベルに向かって逆に走った。



「ッ!?」



どうしてこちらに走って来るのか、混乱したルベルは一瞬動かなくなってしまった。ロズはルベルに攻撃せずそのまま通り越してルベルの背後に着くと腕を伸ばしてまっすぐルベルに向けた。
人差し指は引き金に触れている。



「っやべ!」

「衰えたのかしら?ルベル!」



勝利を確信した笑みをロズは浮かべた。
ルベルの汗が月の光に反射して小さく光った。



「衰えてねぇ、つぅの!!」



ルベルはポケットに忍ばせていた閃光弾を宙に投げた。閃光弾を投げながらルベルは後転して目を腕で覆う。
宙に放たれた閃光弾に目が行って引き金をひくタイミングを逃したロズはハッとする。宙に浮かぶ物体が閃光弾だと気が付いた時にはもう遅い。

目にズシリと刺激が走った。目の奥が痛くなる閃光が児童用玄関を一瞬だけ支配する。閃光は純白すぎて漆黒だった。



「ああぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ」



閃光がおさまった時、ロズはうつ伏せに倒れて叫んでいた。持っていた銃は床に落とされていて、ロズの両手は目を覆っている。
あまりに至近距離の閃光弾に目を痛めたのだ。
運よく銃は床に落ちた衝撃で発砲しなかった。

目を覆っていたルベルは痛めることはなかった。ルベルは起き上がり、ロズに近づいた。



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