かつての仲間は今の敵
 


サブラージを運んできたベルデは不安気な表情を浮かべて黄果を見た。黄果はサブラージから採血した血を熱心に調べている。



「……こんなことしたらルベル怒らないかな」



目を開ける様子がないサブラージに目線を移してベルデは呟くように言う。



「遅いと思いますよ、ベルデ。ルベルはもう怒ってるだろ」

「うわぁ……」



コリーがベルデを見ながらふっと笑った。「大丈夫です。俺の美貌があれば――」と自賛しはじめるコリーを無視して紫音はベルトにつけている十字を鳴らしながら黄果に近寄った。



「やってくれましたね、北区のマフィア……」

「黄果、回収屋の正体はやはり?」

「はい、そうでしょうね。」



ギチリと悔しそうに紫音は歯を擦らせた。そこに眠っているサブラージを見て黄果は頭につけている眼鏡を目につけて舌打ちをした。そして白衣のポケットに手を入れる。



「あの時判断ミスしたのは私です。」

「黄果は悪くないよ、そもそも悪いのは北区のマフィアで……」

「悪因を探してたらキリがないでしょう。黄果、彼女は保健室に運べばいいのか?」

「ええ」

「ベルデ、コリーを手伝ってやれ」



紫音が手伝うように言うがコリーはサブラージを抱えて行ってしまった。ベルデは役目がなくなってただおろおろと戸惑っていた。
採血の道具をアタッシュケースにしまって黄果は辺りをコリーのあとについていった。



「紫音、ルベルここに来るかな?」



ベルデがそう呟いた瞬間、廊下が騒がしくなった。「紫音ーー!!」と叫ぶその声はロズのもの。廊下の奥から現れたロズは真っ直ぐベルデのところへ行って抱き着いた。
ベルデはカッチコチに固まってそれから動けず。構わずロズは抱き着いた腕を離さなかったが、紫音に銃を突き付けられてさすがに苦笑しながら離れた。



「ベルデってば、弱気なのにちゃーんと筋肉ついてるのよね!ギャップが私のツボよっ!」

「えっ、あ、ありがと……う?」

「筋肉の有無はどうでもいい。ルベルはどうしたんだ?ロズ」

「彼ならまっすぐこっちへ来ているわ。どうして毎晩殺し合っているような回収屋のために頑張ってるのかわからないんだけど、なんか怒ってたわよ。雰囲気が。」



ロズが思い出すように、頭に手を添えて考えていた。紫音はベルトから下げている十字を構う。
ベルデは右手の甲に埋め込んだ十字を左手の指でなぞりながら「ルベル怒ったら怖いんだよね」と呟いていた。



「で、ロズはどうするんだ?」



ロズは頭から手を離した。そして妖艶に、笑った。



「ルベルに会うっていう私の目的は終わったから約束とおり組織をやめるわ」



腕を組み、ロズは窓の外を見た。
埃が目立つ廊下や玄関とは違ってそこの部屋だけは綺麗に片付いている。
ロズは窓に手を添えてすっと開いた。



「それじゃあさようなら。また仕事で会えるといいわね」



ロズは窓から飛び降りた。二階だったのでロズはなんてことがないように着地して楽しそうに駆けていった。

煙草に火を付けながらそれを眺めた紫音はベルデへ振り返る。



「ルベルが来るぞベルデ。黄果たちにも伝えに行こう。――奴は奪還屋だ」



紫音の少年に似た声がその部屋に響き渡る。
信頼した仲間に向ける殺気が混じる。



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