夜道で出会った伝言屋のロズ
 

夜道―――。
ルベルはただひたすら走っていた。

印鑑を奪還する仕事などとうに忘れている。今頭の中を占めるのは、運び屋がサブラージを誘拐していったことだけだった。

左都からどこへ連れていかれたのか、全く聞いていなかったが、心当たりはあった。



「……ッチ、急げ俺!」



自分を急かす。
ポケットからさがる十字架が揺れて、カチカチと音を鳴らす。ルベルの耳にそれは、はっきり聞こえていた。



「あ、やっと見つけたわ。ルベル!」

「あ゙?」



前方、斜め右から女性の声がルベルを呼んだ。
ルベルはその声主とは知り合いであり、友人……、である。

ルベルは彼女を視界に捉えた瞬間目を見開いてゾッとした。



「テ、テメェ…、ロズ…。なんでこんな所にいるんだよ」



少し顔をひきつらせたルベルを女性―――ロズは色気たっぷりの笑顔で見た。なめまわすようにじっくりと。

露出度が高い服を見に纏ったロズはスリットから覗かせる白い脚を気にせず、ルベルに歩み寄った。そしてルベルに抱き着いた。
その豊満な胸がグイグイとルベルに辺り、彼は冷や汗を流す。



「なんでいるんだよって聞いて……、つぅか離れろ!!」



乱暴にルベルがロズの肩を押すとロズはすんなり離れた。



「もう、相変わらず乱暴なんだからぁんっ」



語尾にハートを付けながらロズは腰をくねくねと揺らす。ルベルは無視をして再び走ろうとしたがロズに腕を捕まれて立ち止まった。



「んだよ」

「そう冷たくしないで欲しいわ。ドキドキしちゃうじゃない」

「さっさと用件を言え、変態。殺すぞ」

「乱暴はいけないわよ!
伝言を預かってきてるわー、殺し屋から!」



ビク、とルベルの肩が動いた。そして相変わらず抱き着いたままのロズを見下ろす。

ロズもルベルと同じく裏社会の住民だ。彼女は伝言屋。ドMなところもあるが、真面目に仕事をこなしている。
ちなみに、学校へ到着寸前のサブラージ(と左都)のまえに現れた正体不明の人物はロズだ。彼女が伝言屋として。サブラージはその正体は情報屋かと思っていた。そもそも情報屋は―――……‥。

殺し屋とは紫音のことだ。ルベルの仲間であった紫音。
ついでながら、闇医者は黄果。尋問屋はコリー、運び屋はベルデ、だ。

運び屋としてサブラージを拐ったのはベルデ。だからルベルは運び屋がいる、サブラージがいる場所に心当たりがあったのだった。



「んで、伝言屋ってなんだよ。ロズ」

「『回収屋の正体がわかったらルベルはどうする?』」



さらりと、一字一句間違えずに伝言屋であるロズは、紫音からあずかってきた伝言を言う。あまりに呆気なく、あまりに意味が含まれた伝言に一瞬ルベルは聞き逃してしまったと勘違いをした。



「は、ぁ?おい、今なんて…」

「もー、ちゃんと聞いてるのよ?『回収屋の正体がわかったらルベルはどうする?』だって。」

「……、どういう意味、だ…?」

「さあ?私は伝言屋だもの。伝言を伝えに来ただけだからわからないわ」



ロズがふわりと髪を舞わせて首を傾げた。月の光に反射してとてもキラキラし、綺麗だった。



「まあいい、後で考える。じゃあなロズ」

「……ルベル、私、伝言ついでに貴方に伝えたいことがあるの」

「改まってどうしたんだよ」

「実は私ね、紫音たちの見方……つまり組織に入ったのよ」



伝言と同じく、ロズはあまりに呆気なく、あまりに意味が含まれた言葉を放った。そして呆然とするルベルに、西区の人間らしく別れのキスを頬にしてから背中を向けて走り去って行った。


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