幼い彼の強い決意
 



「はぁ、はぁ…っ」



右手に握る刀を振ったルベルは息を乱していた。ドサ、という音がして斜め前にいた男が血を吹き出しながら倒れた。

ルベルが居るのは、ガンマがユアンをつれて潜入したビル。人間以外は空っぽのビルで、足音がよく響く。
このビルは八階まであって、地下は二階まで。
ルベルは現在三階に居て、八階を目指している。地下にはコリーが向かい、後から潜入した紫音は二階にいて、ルベルと同じく八階を目指している。
上からパリンと窓が割れる音がした。ベルデの狙撃だろう。

ルベルはここに来るまでに10人近くを殺していた。ルベルは血を浴びて、まさに赤い人≠ニなっている。



「返せ…返せよ、ユアンを……っ」



そんなことばかり呟いていた。
ルベルの目的はただ一つ。ユアンの奪還だ。それ以上でもそれ以下でもない。ルベルは奪還以外のことは考えられない人形のように、呼吸を整えずただ刀を振るっていた。眼は鋭くなり、ルベル独特の緑色の瞳がギラギラと光っていた。その殺気はマフィアの男たちをも恐怖させる。それほどまでにルベルは憤怒していたのだ。
ユアンはルベルにとって唯一の肉親であると同時に、ルベルが生きている理由だった。



ルベルとユアンはこの防御壁都市の外に生まれた。だが、生まれた家は経済的に苦しかった。
ユアンに物心がついたばかりの頃。幼い二人を両親は奴隷商人に売り渡したのだ。奴隷商人から酷い扱いを受けたルベルとユアンはただ耐えるだけしかできなかった。
もう散々だ、そう思った時にルベルたちは買われた。処刑人に。死体の回収や刑の実行など、汚い仕事ばかりをしていた。
自然と手につくのが、人を殺すための技術。力仕事もしていたせいか、ルベルとユアンはいつの間にか鍛えられていた。

そんな汚い生活で、社会では人間扱いされないようになっていた。ルベルは、幼く、唯一の妹を守るために生きようと決意した。愛らしく見えて、儚くて。ユアンを守れるのは自分しかいない。ユアンを守るためだけに生きてやる。

強く、強く決意したのだ。
子供ながらに、必死でユアンを守り、助け、笑わなかった彼女が笑った時はルベルも嬉しかった。

処刑人の仕事が辛く、苦しいと感じ、ストレスが酷くなった時だった。ルベルは反抗心を抱き、とある大人を殺してしまった。それは自分達を人間扱いしなかった無実の住民だった。
それからルベルはユアンの手をひいて逃亡を始める。自由になった変わりに自分のことは全て自分でやらなければならない責任感を負うことになったが、それでもルベルはユアンのためだけに生きた。



それもすべて、いま、崩れていこうとしていた。奈落の底へ、二度と這い上がらないように…。



「畜生…、ユアンは何処だぁァァッ!!」



半ば叫びながら、ルベルは全身が赤くなるほど返り血を受けた。
六階まで走り抜けた時「ルベル!」と呼び掛ける声がした。追い付いてきた紫音だった。

紫音は一瞬ルベルの格好に硬直したが、すぐに我に返った。



「紫音か」

「怪我はないか、ルベル?」

「平気だ」

「そうか…。あと少しだ。頑張ろう。」



弾を装填する紫音はルベルと目を合わせた。
紫音はところどころに掠り傷をつくっているものの、まだ動ける状態で、ルベルの数歩後ろを走り出した。

時々現れるマフィアは紫音が的確に撃ち抜いて、体力を最小限に押さえる。



「さっきよりもマフィアが少ねぇ」

「そろそろかもしれないな。ユアンを絶対に取り返すぞ、アビム!」

「おう!!」



そして七階の一番奥にある扉を壊してルベルと紫音は中に侵入した。




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