背後には絶望が
 



 ガ ン ッ 



棚の上にあった写真が大きく揺れてゴトリという重い音で落ちた。



「ッ畜生!!」



ルベルは棚を蹴っただけで足りなかったのか、壁に拳を向けようとしてコリーがそれを掌で受け止めた。
窓にはライフルに使うスコープでベルデがガンマの追跡をし続けている。



「じいさんを殺して、ユアンまで……!!」

「落ち着いてくださいアビム!!物に当たっても現状は変わらない!アビムが感じてるその感情は俺も…、ベルデも同じだ…、か…ら……」



ぽとぽととコリーの瞳から感情が流れた。頬に一線を描いたそれは顎で止まり、足元に小さな水溜まりを作った。

ルベルははっとして自分がいけなかったことを悟るとコリーから目線を外して神父を視界に入れた。
表情は安らかではない。殺されたのだ。当たり前だろう。心臓を撃ち抜かれたらしく、そこを中心に血は円をつくっていた。
血の流れは止まっていて、神父の肌に血の気はなくなっていた。人間の肌とは思えないほど白く、このまま透けて消えてしまいそうな感覚があった。

ルベルは目を擦って、もう一度神父を見る。焼き付けるように真っ直ぐ見据えていた。昨日までの出来事すべてが脳裏に刻み込まれ、目尻が赤く染まっていく。


「わかった、あっちのビルに入っていったよ!」



スコープを両手にベルデが振り返った。
ルベルはキッと目付きを変え、「行くぞ」と低い声を出した。



「行くって…、じいちゃんをこのままにしておくわけにはいかないよ…?」



ベルデは冷たい手を取りながらルベルとコリーを見上げた。



「警察は…」

「駄目です。騒ぎになって俺たちの正体がバレるのは困る。」

「じゃあどうするんだよ。」

「た、確か黄果のお義父さんって葬儀屋じゃなかった?そこに頼も…?」



ベルデの意見を採用することになり、3人は騒ぎ続ける感情を抑えて電話を手にとる。ベルデが泣きながら電話で話すのを聞きながらルベルとコリーはその間に血を拭き取ったり、自分達で出来ることをする。

その間ルベルは表情を見せなかった。ずっと下を向いていてひたすら血を拭いていた。ズボンに血がついても気にする素振りを一切みせない。


―――ただ、刻一刻と絶望が近付く事は、誰一人気が付かない
































「ユアンが…?」



神父を葬儀屋に任せ、黄果と彼女に呼ばれた紫音がコリーと泣き続けるベルデに事情を聞いた。ルベルはベルデが教えたビルの方に体を向けながら所持する武器を確認していた。



「……ルベル」



紫音がそっとルベルに近づいて肩を叩いた。彼女の眼は静かに怒りが灯っていた。
ルベルが振り返ると、紫音は抑えたような、震えた声を発した。



「殺るぞ」











ガンマが入ったビルと同じ高さの近隣にある別のビルにライフルを構えたベルデと、すぐよこに黄果が配置された。黄果は非戦闘員の医療を中心とするタイプで、ビルに直接入るのはルベルと紫音とコリーだけだった。


ちなみにガンマが入ったビルは取り壊しが決まった誰も居ないビルだ。
そこにガンマを含めた何人かのマフィアが潜伏していて、さらにユアンが幽閉されている。


まずコリーとルベルがビルのなかに突入してその後に紫音が突入。向かいのビルからはベルデが補助に入る。彼らに持たせた無線機に連絡が入り次第ベルデと黄果も動くという簡素な作戦。
それをすぐさま決行することになった。



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