その心は復讐に染まる
「……な、に これ」
ユアンがカラカラの声で小さく、呟いた。 ルベルとコリーは何も言えず、ただ立ちすくんでいてベルデはすぐに神父の首に手をあてて死を確認した。
「しん、で…」
「おい、嘘だろ!?」
みるみるうちに涙を溜めて流すベルデに続いてユアンも泣き出した。 ルベルとコリーは現実が呑み込めず、ただ呆然と立ちすくんでいることしか出来なかった。
そうしているとガタ、という物音が一階から響いた。泣き続ける二人を置いてルベルとコリーが走る。
もしかしたら神父を殺した犯人がいるかもしれない、と悲しむ余裕もなく復讐心に染まった僅かな希望をもって。
「俺はこっちをさがします!ルベルはあっちをさがしてくれ!」
「おう」
一階を二手に分けてさがした。コリーの手にはトンファーが片手ずつに握られていて、ルベルは家にあった金属バッドを握る。 一分もしないうちに拳銃が発砲する音がした。それにかけつけたルベルはかすり傷をつくるコリーに加勢した。
相手はサングラスにスーツ姿の男。子供のルベルたちとはちがい、れっきとした大人だった。
サングラスの男は舌打ちをすると、ルベルたちから距離をとって二階へ逃亡した。
「ま、ずい!上にはユアンとベルデが居る!!」
「わかってますよ!!」
急いで二人は階段をのぼる。上からユアンの悲鳴がして、ルベルのスピードは上がっていくばかりだった。
「あなたは、誰…ですか?」
緊迫感に染まったベルデの声と布が擦れる音が空間を支配していた。
のぼってきたルベルとコリーはその空間に入り込むと身動きが取れなくなってしまった。
サングラスの男がユアンを抱え、その頭に銃口を突きつけていたのだ。対するベルデは持っていたライフルをまっすぐ標的である男に向けていた。が、ベルデは撃てないでいたのだ。ベルデの腕ならば男を撃ち抜くことができる。だが男を撃てば彼の握る拳銃が発砲してしまうかもしれないのだ。拳銃の安全装置は外されていて、男は引き金に指を通している。男が撃たれ、倒れた衝撃で引き金が引かれてしまえばユアンの頭が飛ぶ。
それくらいはルベルにも理解できていた。 だからルベルは隠し持つ拳銃を握れないままくやしそうにしていた。
男は怖がるユアンを抱えたままヘラヘラ笑った。
「その神父を殺したのは俺だよ。理由くらいは餓鬼共に教えてやる。」
血を流して倒れたまま動かない、話し掛けてくれない、瞬きをしない、一緒に散歩をしてくれない、頭を撫でてくれない、叱ってくれない、褒めてくれない、笑ってくれない冷たい神父をルベルは視界に入れた。嘲り笑うように嘲笑した男は続きを話した。
「北区の、てか俺たちのボス様が赤い人≠ノ頭を悩ませててさぁ。」
びく、とルベルの肩が動いた。
「俺たちが手柄を立てようと独断で調べたら廃墟に暮らすお前らにあたってなーーーぁ。」
「……っまさか…」
先の言葉がわかったのかユアンが小さく呟いて目を見開いた。
「廃墟に暮らしてもストリートチルドレンっつーのか?どうなのか知らないし興味もないけど、この神父。赤い人≠セと理解した上で餓鬼共を養ってたじゃないか。」
「…え?」
「殺されても可笑しくないくらいの重罪だよなぁ、なァ、ナァ?」
グリグリと銃口をユアンに圧しあて、ユアンは痛そうに顔を歪めた。血の繋がった兄であるルベルは黙っていられず「ユアンを離せ!!」と精一杯叫んだがルベルの声は男に聞こえなかった。 変わりに男はニィと笑う。
「俺の名前はガンマ。悔しかったら俺を殺してみろ。」
男、ガンマはユアンを抱えたまま部屋の窓から飛び出していった。ベルデはすぐに反応して窓のさんを支えにライフルを構えてガンマに向けて何発か撃ったが、ガンマの腕や足をかすっただけだった。
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