血塗れの犠牲者
 



「ある晩、私は赤髪の少年と黒髪の少女が人を刺すところをみてしまったんです。……そう、噂の、赤い人を。赤い人の正体が…、まさか、こんな子供だったなんて…。今でも信じられません。けれど見間違えは…ありませんでした。私はそれが苦しい…。悔しいのです…。好きで人を殺す方はいません。…事情があるのでしょう。私は見過ごすことができませんでした。だから、こうして平和な日常を知って欲しい。人を殺すことが当たり前になってはいけません。」

「……」

「長く話し過ぎましたか?」

「いえ」



神父の言葉はニセモノでない。

それがしっかりと黄果に染み込んだ。

グツグツと鍋に入ったシチューが香ばしい匂いを辺りに撒き散らす。それを嗅ぎ付けてやってきたユアンと紫音はお皿を出したり手伝いを始めた。
それからお風呂から上がったルベルたちがわいわいと騒がしく集まってくる。

微笑ましく見守る神父はまるで彼らのおじいちゃんで、ルベルたちはすぐになついた。



「お?神父はシチュー食わねぇのか?」



シチューで口を汚くさせたルベルが紫音の注意を無視し、なにも口にしないでにこにこと笑っている神父に気が付いた。神父は優しく宗教上食べれないものがあることを教え、ルベルが固まった。

元、ではあるがルベルも信仰者。石のように固まってしまった。



「だ、大丈夫だよな…」

「大丈夫大丈夫」

「天罰が降ったりするかもしれませんけどね」



せっかくユアンが兄のルベルのフォローに入ったのに黄果が釘を刺すようなことを平然と言ってのけ、いじめっこの笑みを作った。



「だっ、だいじょぶだよ、ルベル!」

「そうですよ。天才的な頭脳をもつこの俺が言うんだからな」

「天罰に頭脳は関係ないだろう」



コリーが真剣に言っていることを知ってか知らずか紫音はさほど興味がなさそうにシチューをスプーンですくいながらツッコミをいれた。

コリーはそれを華麗に無視。
ベルデとユアンがルベルを励ます。実際には励ますのではなく、説得していたのだが。

シチューを食べ終わったルベルたちは神父の手伝いをしながら、雑談をしていて彼らは親密になった。















それから何週間か経った。神父とは親しくなり、夕食は毎日一緒にするようになった。

赤い人はあまり出てこなくなり、北区は暫く平和だった。

そんなある日。
本当に、なんとでもないある日。

いつものように神父の家に訪れた。いつも訪れるのはルベル、ユアン、ベルデ、コリーだ。紫音と黄果は廃墟に住んでいないし、養女となって拾われているため行く必要がないのだ。たまに遊びに行くが。



「ちわーっす」

「こんばんはー」

「こ、こんにちは…」

「おじゃまします。」



ぞろぞろと4人が神父の家に入っていく。いつもなら返事があるのに、今日はない。おかしい。



「……ねえ、変じゃない?」

「寝てんじゃねぇの?」

「え…、で、でもさ、それはないんじゃないかな…。その、僕たちが今日ここにくるのはわかってると思うし…。」

「そうですね。でも教会からまだ帰ってきてないだけなんじゃないのか?」



玄関でルベルたちが小さな会議をしていると二階から物音がした。真っ先にルベルが駆け出して二階へのぼっていった。

だが、そこはしいんと静まっていて人の気配がない。

変に思った。

あとからきたユアンたちも首を傾げた。

とりあえず二階を散策することに。

そしてコリーが見つけた。

血塗れの床を、

そして血塗れの神父を



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