赤い人
 


「実は…、私たちも防御壁の外側から来ているんです。」





ぽかーん

アビムとユアンは情けなく口を開けながらそれを告げた黄果を見ていた。穴があいてしまうほど見ていたユアンは一番最初に我に返った。



「ど、どういうことなの?」

「そのままの意味だ。入ってくる前の記憶はない。アビムたちもそうだろう?状況はよくわかる。」



うむうむ、と頷きながら紫音が腕を組んで納得したように言う。
アビムは話が掴めていなかった。ユアンが仕方ないとばかりにアビムへ説明をする。



「だからね、私たちっていつの間にかこの防御壁都市に入っちゃったでしょ?」

「お、おう…」

「それって私たちだけじゃなくて黄果たちもそうなんだって。」

「なんだって!?」



ガタッと立ち上がったアビムにビクッと泣き出しそうな顔で驚いたのはベルデ。髪を構っていたコリーは、一度手を休めだが、再び行動を再開する。



「私と黄果は大人に拾われたが、コリーたちは…」



紫音が申し訳なさそうにコリーとベルデを見た。ベルデはライフルをつよく抱き締める。



「だから紫音が日用品を運んで来るんです。食料などを。まあ、それでも限界があるのでベルデたちは盗んだりしているんですよね。」

「そのライフルで?」

「そうですね。」

「俺たちは同じです、アビム。」



すっと立ち上がってコリーがアビムとユアンに手を差し出した。

コリーの整った顔が明るくなる。



「仲間になりません?」



その手を二人は握った。




















それから四年の月日が流れ、ユアンは13歳、アビムたちは14歳へと成長した。
相変わらず紫音と黄果を除いた四人は廃墟で暮らしていて、紫音たちの援助もあって生活できていた。

当時北区を中心に殺人鬼が出没していて、それを「赤い人」と呼んでいた。殺した人間の返り血を浴びたその殺人鬼はまるで夜の街を徘徊する赤いシルエット。だから「赤い人」。安直だが、防御壁都市はこれを恐れていた。
その赤い人の正体はアビムであった。無差別に金などを奪う盗人だ。自分達が生きていくために、どんな汚いことでもやってのけていた。

建物の屋上からはスナイパーとして腕をあげたベルデがサポートし、別の場所ではユアンとコリーもその手を赤く染めあげていた。



「ルベル、今日の収穫はなんですか?」

「金。」

「それはわかってますよ。具体的に聞いているんだ。」



はじめの一文だけ敬語を使うコリーは、ナルシストだということがわかった。
ベルデはビビり。
黄果はドS。
紫音が唯一の常識人。

数年の間で互いのことが理解しあえ、欠かせない存在ともなっていた。


ルベルとは、アビムのことだ。「ルベル」の意味は赤。赤い人の正体であるアビムを「ルベル」と呼んでいるのだ。はじめは黄果とコリー、ユアンがからかっていたのだがいつの間にかそれが定着していた。



「ほらよ」



ルベルがベルデに背を預けながら盗ったバッグをコリーに渡す。
コリーはそれを受け取り、バッグを漁ったあと財布を取り出して中身を確認。



「1週間は平気でしょう。ああ、でもユアンが掃除したいって言うかも知れないな。ルベル、どうにかしてユアンを抑えられないか?」

「無茶いうなよ。パースっ」

「痛っ!!む、むりだよ…っ!」



バシンとベルデを叩くも、ベルデは目に涙を浮かべて必死に断っていた。



「ユアン怖いよ!この前刺されかけたし!悪魔っ、魔女!」

「………ベルデ」

「ひっ」



ゆらゆらと後ろから現れたのはユアン。両手に短剣を握り、「ふふふ」と笑いながらベルデに歩み寄る。ベルデは対抗しようなどと考える暇もなく襲撃を受けた。



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