奪還屋と回収屋
 


窓からのぞく空は快晴。
独り暮らしにはちょうどいい広さの部屋に敷かれた布団から上半身を起こしたのはルベル。

彼はまだ寝ぼけた頭に違和感を感じてそこに左手を当ててみる。
帰ってきたのは柔らかい布の感触。



(……痛っ。)



ちいさな痛みに少し目が覚め、なぜ痛いのか記憶を巡らせる。

たどり着いたのは夜、暗い路地裏での出来事。奪還屋であるルベルは、回収屋のサブラージを追いかけて返り討ちにあったのだ。

回収屋であるサブラージの外見はまだ中学生程度。というより、事実、中学生だ。
昼間は学生をしていて夜間になれば回収屋として裏にとける。見事両立をしていて、都内の中でもエリートクラスである高校を志望している。……と、ルベルはサブラージから自慢されたことがある。

もちろん走りながら。
手榴弾を投げられながら。

たまたま廃墟地区でやりあっていたからいいものの、もし一般人に通報でもされたら人生終わりだ。


なんてことを考えながらルベルは無言のまま立ち上がり、布団を畳む。

そういえば腹減ったな……、とお腹を擦りながら。



「あー、」



昨日購入したパンをかじりながら、開けた窓のさんに肘をついていると、下の方で誰かがルベルを呼ぶ声がした。

誰だろうと、目線だけ下に向けるとそこにはたくさんの生徒が同じ方向へ歩いていた。
アパートの二階でもそれなりの広さは見渡せる。

すると目が合いたくない人物を発見し、パンをくわえたままルベルは窓を閉めた。ついでにカーテンも絞めようとしたが、手が止まる。




「おーい、ルベルー、単細胞ーっ!」



昨夜ルベルから勝利を奪い取ったサブラージがルベルに向かって手を突き出している。その手が握るのは紙袋。

ルベルは嫌そうな顔をしながら部屋を出て、アパートの階段を降りた。サブラージが駆け寄ってくる。

周りにたくさんいたはずの生徒はポツポツとして、数が少なくなっていた。



「制服着て外に出りゃ、お前もただガキに見えるな」

「ガキだなんて、照れちゃってー。もう」

「死ぬか?」

「色気を感じる?やだ、ロリコン!!」

「殺す」

「単細胞ねー。多細胞の私を見習いなさい」



話がかみあっていない。

成人済みであるルベルは長身で、ギロリとサブラージを睨む。
サブラージは狼狽えない。伊達にルベルと互角に渡り合っているわけではないのだ。



「ところで、はい」

「なんだよ」

「早く受け取って」



サブラージはルベルの胸あたりに紙袋をつきだす。ルベルは疑った目をしたがすぐに受け取った。

彼らは夜間に危ないことをする裏町業の人間であっても、仕事さえ絡まなければただの知り合いだ。



「何が入ってんだよコレ」

「昨日、頭を怪我したでしょ」

「お前のせいでな」

「だからお菓子」

「どういう飛躍をしたらそうなったんだよ。バカか」

「単細胞オニーサンに言われたくないから。」



お見舞いだと思って。

言い残してサブラージは立ち去った。周りに生徒はいない。
ルベルは部屋に戻りなから紙袋を開けてみる。飴やガム、スナックやチョコが詰まっていた。ルベルは「あ」とそこで気づく。



「恩を売られた」



お菓子たちの奥に、隠すように沈んでいた包帯や消毒剤を発見してルベルは嫌そうな表情をした。

サブラージがこんなに優しいはずがない。
気付いたときにはすでに遅し。

ルベルは左手で拳をつくり、悔しそうに力を加える。



「あのマセガキがぁッ!!絶対今夜こそ破滅させてやる」



そう言いながらもルベルはチョコを口に運んだ。




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