北区の末端、廃墟学校
 


「こっちに来て話をしましょう」と黄果に手招きをされてアビムたちが着いたのは廃墟になった学校。
夜ということもあってか、中はまっくらだった。学校、廃墟、不衛生という条件が揃っていてとても不気味だった。床に埃や外からの土、何かが溢れた跡。公共にある学校とくらべて汚いものではあったが、アビムとユアンが今までに見てきた廃墟よりはとても綺麗だった。



「ここ、幽霊が出るって云われていてあまり人が寄って来ないんです。」

「じゃあなんで黄果とベルデはこんな所に居るんだよ」

「それは座ってから説明します。それに、あと二人いますよ。」



くすくす、と笑う黄果の隣でベルデはへにゃ、と柔らかく笑った。

アビムと同い年に見えるこの二人はとあるドアの前で止まった。アビムは二人を見ていなかったので五メートルくらい行きすぎた。ユアンがアビムの手を引かなかったら迷子になっていたところだ。

着いた場所はとある教室。乱れた机や椅子の上には水が入ったペットボトルが何本か置いてあった。



「………ん、?客か?」



並べた机の上に寝ていたのは一人の少年。ゆっくり起き上がり、アビムとユアンを見る。アビムは堂々としており、むしろ「なんだよ」と見つめかえした。ユアンは兄であるアビムと繋ぐ手を強く握りしめて下を向いている。



「この人たち、誰です?黄果」

「アビムとユアンです。紫音はどこですか?」

「紫音ならもうすぐ」



少年がいい終わると、ガラッとドアが開く。そこから現れたのは、銀髪の少女。寝間着を着、手にはロウソクがたくさん入ったビニール袋。月明かりのみが頼りだった教室に明かりが灯る。



「む?」



少女が首を傾げた。目線の先にはやはりアビムとユアン。



ベルデがライフルを抱えたままちょこんと椅子に座り、続けて全員が何かに座った。
黄果が全体にアビムたちの紹介をする。



「男の子の方がアビム、女の子がユアンです。もしかしたら私たちと同じかもしれません。
私は黄果。傷の手当てをします。」



黄果はすっと立ち上がり、アビムの膝にできた傷の手当てを始めた。チクリと傷む膝にすこし顔を歪ませたアビムを見ながらベルデが控え目に自己紹介をする。



「えっと…、僕はベルデ。遠くから撃ったり、狙撃がここでのお仕事…です……。あっあと、ここに、住んでるの…」



俯きがちにベルデがもごもごと言うと、黄果が「はっきり喋りなさい」と強気に言う。



「俺はコリーです。ベルデと同じくここで住んでいる。」

「私は紫音だ。日用品を調達している。」



少年と少女の自己紹介が終了し、アビムたちも自己紹介をした。黄果がすでに言っているが、自分で自己紹介をする。



「俺はアビム、こっちが妹のユアン。気が付いたらここにいたんだけど、ここって、どこだ?」

「ぼ、防御壁都市の北区の末端…。」

「防御壁都市?」

「ほら、防御壁です。みえるだろ?」



コリーが指が窓の外へ向けられる。そこにそびえ立つのは巨大な白い壁。アビムがここに来る前に見た壁だ。



「防御壁に囲まれた都市。だから防御壁都市。アビムたちはどこから来たんだ?」

「壁の、外から。」



時が止まった。
何も音がしなくなり、それが奇妙で、居心地が悪くて、アビムは顔をしかめる。
紫音とコリーとベルデが互いに顔を見合わせ、黄果はただアビムの膝に消毒液をかけている。

不安になったのか、ユアンが力強くアビムの手を掴む。



「壁には入り口がないんだよ?……どうやって…」

「知るかよ。つか俺が聞きてぇ。いつの間にか居たんだからよ」



アビムがベルデに対して素っ気なく言えば、ベルデは項垂れた。ベルデを無視し、黄果が手当てを終えて呟く。



「………実は」


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