夜に支配される防御壁都市
 

不意に、ルベルの目が開いた。開いた、ということはつい先ほどまで閉じていたということ…、つまりルベルは寝ていた。

上半身を起こし、辺りを見回すが、人工的な光はない。真っ暗だ。だが夜目の利いたルベルはすぐにその闇に慣れてしまった。



「俺の、部屋……。ああ、戻ったんだったな」



助手と共に学校から戻ったのを思い出したルベルは寝ぼけた頭でしばらくぼーとしていた。
するとカチッ、という音がして部屋の明かりがついた。

電気を入れるスイッチがある場所には助手が立っている。



「おはよルベル。」

「あぁ。あ、つか仕事入ってたわ、今夜」



仕事を思い出したルベルは立ち上がって部屋着から着替えようと、普段仕事をするときに着ている服を手に取ろうとした。



「今日の仕事は?」

「いつも通り、ただの奪還。」

「へぇ、そう。何を奪還するの?」



着替えを始めたルベルに助手が会話を繋げる。



「印鑑だとよ。まあ、急ぎの仕事じゃねえみてーだけど」

「印鑑ね…」

「んなこと、なんで聞くんだよ」



ルベルがベルトを絞めながら助手を見ると、助手の金色をした目は玄関に向けられていた。



「?」



武器や防具を装着していないルベルはあと上着を羽織っていない軽装で、助手と同じ場所を見た。

耳を澄ませば誰かが走る音がする。
それはだんだん大きくなり、こちらへ近づいていることを物語っていた。足音はアパートの階段をのぼる。はぁはぁ、と息切れした呼吸も聞えはじめていた。



「んー。まあ、なんとなく?」



ルベルの質問に対して遅れて返事をする。

言い終わると同時に足音はルベルの玄関前に。

一瞬立ち止まり、インターフォンが鳴る。



「開いてるよー」

「ちょ、おま…!!」



ルベルが少し慌てると、それとは反対に助手はゆっくりと妖艶に笑った。



「し、失礼します!」



ガチャ、と勢いよく放たれたドア。

現れたのはひとりの中学生。

桃色がかった茶髪を背中に長し、少し切れ目の少女。
身長は同年代の女の子と比べると高い方。

長身のルベルから見ればまだまだ小さいのだが。

色白の肌は月明かりを反射し、とても綺麗。悪く言えば不気味。

はぁはぁと乱した呼吸と漏れる掠れた声が少女らしい声をだす。

紫の瞳がルベルを捉えると、乱れた呼吸を整えようとしないで半ば叫ぶように訴える。



「助けて!!サブラージがっ」



彼女は左都だった。

よく見れば学生の着る制服はところどころ汚れ、左都自身にも擦り傷が見える。左都は糸が切れたように、その場に崩れた。

ルベルはすぐに駆け寄って横抱きにし、助手は布団を敷く。その上に左都を寝かせたルベルは「大丈夫か?」と顔を覗いた。



「走ってきて疲れちゃったんだね。ちょっと休めば大丈夫だよ」



飲み物を持ってこようと離れた助手が歩きながら、ルベルに伝えるとルベルは「そうか」と左都から目を放さない。
左都は急いで走ってきたのか、息が荒く、体力が切れてしまったのか左都はまともに話せるような状態ではなかった。



「サブラージ、がっ……は、運び屋に、連れていかれた」



切れ切れの息で左都が紡ぐ言葉はルベルに衝撃を与えた。
気がつけばルベルは武器や防具を装着して上着を羽織っていた。



「オイ助手!!そこのガキ頼んだぞ!」

「え?ちょ、ルベル?」



助手の返事を待たずにルベルはドアを飛び出して行った。それを見届けた助手はため息を漏らし、コップに麦茶を注ぐ。
そのコップを左都のところへ持っていった。



「変なこと吹き込まないでよね」

「あははっ、なんの事?私はアイツ≠ノ頼まれたからやっただけだよ、助手君」



先ほどまでの息切れはどこへやら、左都は整った息をして、正常に息をしてした。



「左都の良いところって演技力があるところだけなんじゃないの?」



助手と左都は、親しげに話をする。客観的に都市を眺めて――――



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