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「おい、これでいいのか?」

「うん」



やってきた助手の指示で保健室へサブラージを運んだルベルは一息ついた。助手はぱっぱとサブラージの体を診ると「大丈夫」と言ってルベルを安心させた。



「黄果の奴、手加減したか…」

「黄果って、あの闇医者の?」

「ああ……ってか黄果ってそんなに有名なのか?」

「え…、知らないの?闇医者といったら黄果。それはこの都市で定着してるよ。あ、裏で、だけど。残虐趣味の方はあまり知れ渡ってないみたいだけど」



黄果が身近にいて、彼女の名が知れていることを知らなかったルベルはへぇー、と納得していた。
そういえば最近は黄果の名前をよく聞いてた気がするな。
とのんびり考えていた。



「つぅか、サブラージは本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫。中学生同士の喧嘩レベルだから。ちょっと休めば治るよ」

「凄ぇな、医者みたいだ。」

「これでも医者を志望してたからね。今じゃこんな職だけど、さ。」



今のなしなし、と両手をブラブラ振った助手は羽織袴を纏った。保健室に置いてある椅子を2つ持ってきて、片方をルベルに渡す。
受け取ったルベルはそれに座り、助手はルベルの隣に椅子をおろして座った。



「どうして彼女を気に掛けるの?」

「……サブラージの事か。」



助手が頷くのを確認したルベルは天井を眺めた。どうして、と聞かれてもルベル自身でさえその答えがわからなかった。自問自答を繰り返した末、ルベルは5分もたたないうちにその思考を打ち切った。考えることがもともと苦手であるルベルに、じっと思案することができなかったからである。



「わかんねぇわ。……けど、なんだか…、妹と重なるんだ」

「妹って…マフィアに殺されたっていう」

「そうだ」



ルベルがマフィアを毛嫌いする理由はそこにあった。唯一の血縁者である大切な妹を殺されたからだ。それは、無惨に。

暗くなった雰囲気を立て直そうとルベルはオレンジの光が射す窓に目を向けた。眩しそうに目を細めてから呟くように言う。



「もうすぐ夕食だよな。腹減ったー」

「そうだね。もうすぐで警察とかが来ると思うし…。」

「警、察……」



明らかに嫌そうな表情をしたルベルを見てクスリと大人びた笑みをした助手は立ち上がった。



「サブラージはこのままにして、僕たちは帰ろう」



助手がドアに手を伸ばしながらルベルを振り返らずに言った。ルベルは躊躇った。サブラージが心配だったのだ。



「彼女なら警察に保護されるよ。大丈夫。」



助手は振り返った。
二つの月は細くなっている。

ルベルは後ろ髪をひかれる思いで助手の後ろについていくようにして保健室を出た。


サブラージが眠る保健室に次に現れた人物がいた。それは警察でなく、サブラージの親友でもある左都だった。



「サブラージ……!!」



ボロボロになっていて弱々しくなっているサブラージをみた左都は狼狽えた。
サブラージが眠るベッドの隣に置かれた椅子を躊躇いなくすわり、サブラージを見守る。

しばらく見つめていたが、サブラージの肌が汚れていたことに気がつき、タオルをお湯で浸し、サブラージの身体を拭いた。

突然現れた左都は何を思ったのか、とにかくサブラージの看病をし続けた。
オレンジの光は弱くなり、都市は夜の光に包まれる。
保健室を覗く人物に気が付かないまま。




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