情報屋
 




「ったく…」

「来るのが遅いよ」



掃除用ロッカーが並ぶ廊下の近くに二つの人影があった。
片方は情報屋の助手。彼はルベルを見送ったあと、中学校にやって来ていた。その目的は、情報収集だ。頃合いを計らい、校内に侵入していた。

現場の状況から情報を得る。よく情報屋に動かされていた。それが癖になったせいか、助手はハイジャックされた校内に入ったのだが、たまたまそこに見知った顔がいた。

―――彼の親友兼上司の情報屋だ。



「君がなかなか帰って来ないから頑張って部屋を掃除したよ。」

「はいはい、よくできました」

「馬鹿にしてるよね。殺したくなるんだけど」

「まあ、これで僕がいなくても平気ってことで」

「料理できない」

「アンタやろうと思えばできるでしょ」

「フォークより重い物は持てないんです」

「箸を使う人がなに言ってんの」



あははは、と情報屋は笑った。助手はため息をして頭を抱えたくなった。

情報屋は電話で話す時と声はもちろん、全く違う口調、雰囲気、性格を駆使していた。同一人物だとは到底思えないだろう。



「洗濯機の使い方はわかるの?」

「俺を心配するくらいなら帰って来なよ」

「金。」



助手は右手を差し出すが情報屋の女性の手がそれを弾いた。助手は痛そうに顔をしかめて情報屋を睨むが情報屋はとても涼しそうな表情をしている。



「君の髪って黒くて綺麗だよね。金色の目も好きだよ」

「話をそらさないでよね。」

「俺たちの関係は金で買える程度だったわけ?見損なった。」

「僕だって生活かかってるんだけど」



情報屋はあらかさまに呆れた表情を浮かべ、助手を見上げる。



「ところでいい情報落ちてなかった?」



表情を一変させた情報屋は仕事の話をしだす。助手も慌てて仕事らしい話を展開させた。



「情報はないね。あいつら、けっこう仕事慣れしてるみたい。」

「じゃあ確証は?」

「男たちが人間じゃないって事。回収屋と奪還屋が殺った死体は原型を留めないくらい液体化していたよ。人造人間っていういい証拠。」

「あとで回収屋にその液体回収の依頼だしといて」



そこまで言って情報屋ははっとして、両手を振りながら前言を撤回した。



「回収屋は今ダウンしてるんだった」

「?ダウンって…どういうこと?」

「彼女、今怪我を負ってるみたいで」



窓の外、体育館がある場所に目を向けながら情報屋はどこか虚しく言った。助手は多少驚いた様子をみせる。



「怪我?」

「そうだよ。彼女を診てあげなよ。奪還屋は困ってるかもね?」



くす、と情報屋が笑う。背中を壁に合わせ片足でトントン、とリズムよく床を叩く。
助手は腕を組んで少し考えた。



「自分が行けばいいでしょ」

「馬鹿だなぁ…」



今の状態の俺が行けるわけないでしょ?



そういって情報屋は踵を返して昼間の闇に消えていった。助手が窓の外の空を見る。

雲が一面を支配し、先ほどまでの明るさは消えていた。今にも雨が降りそうな、そんな天気。
湿った空気が助手の周りにあって、助手はそれが気に入らない。

情報屋がつい先ほどまで立っていたそこに目線を変更した。



「どっちが情報屋なんだか…。」



何と何をくらべた発言なのか。

助手はその言葉を残して廊下から立ち去る。目指す先は、情報屋が目を向けていた体育館。

二つの人影が立っていたそこは校舎の中でもいっそう暗い場所だった。



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