Hijack
 




紫音を追って着いた場所は体育館だった。武装した男たちが人質の生徒と教職員を見張っていてピンとはりつめた空気がそこに流れていた。

紫音を見失ったルベルは息を殺し、体育館の二階部分に設置されている窓から吹き抜けた内部を見ていた。



(サブラージやさっきの…う、じゃなくて、左都……はいねぇな。どこか別の所か?)



ルベルは彼女たちの身を心配したが、大丈夫だろうと自己判断して人質の解放を優先させることにした。取り合えず厄介な紫音と黄果をどうにかして黙らせる必要がある。

ルベルにはかつての仲間である彼女たちを殺すことはできない。そんな勇気はない。――――互いに。

脅しで黙るほどの紫音と黄果ではない。武力をもってして勝敗を決める必要があるだろう。



「………」

「……ルベル」



ルベルの背後に紫音が立っている。ルベルは気配を察知していたため驚かなかった。そして「なんだよ」と振り向き様に言う。



「私たちは退く。だがまたルベルを勧誘しに来る。そのときまで別れだ。」



生き残った男たちを引き連れた黄果が下からルベルを見上げているのがわかった。



「何度も言うが、私たちは本気だ。私たちの元へ来てくれ。ルベルならいつでも歓迎する。」

「……っ」



紫音はルベルに言い残すとそこから飛び降りて、黄果の所に行った。小さくなっていく彼女たちを背中をただ眺めていたルベルを現実へ戻したのは声だった。

体育館のなかから歓声。

さきほど校門からやって来たのは恐らく、この西区を牛耳るマフィア。奪還屋にだけ任せることは出来なかったのだろう。



「奪還屋」



と、そこにスーツを着た一人の男が近寄ってきた。



「なんだよ」

「今回も仕事、ご苦労。報酬はいつも通りに振り込んでおく。」

「ああ、そうしろ」

「今後もよろしくな」



それだけルベルに伝えると男は人質の所に消えた。
ルベルは仕事が終わった、と体育館を紫音のように飛び降り、帰宅しようとした。



「……、サブラージとかは見てねぇけど…。」



心配になったルベルは体育館の中に入ろうと体の向きを変えた。ちょうど目の前に影があり、それは人影だとわかるとルベルは驚いた。



「うおっ!?」

「そこまでして驚かないでよー。」

「なんで助手がいるんだよ!!」

「居ちゃ悪い?僕は引きこもりじゃないんだから外に出るよ。」



ルベルの目の前にいた人影は情報屋の助手。
彼はいつも通り突然現れていた。ルベルは助手だとわかると無意識に握っていたトンファーから手を離した。



「回収屋のサブラージなら体育館の裏に居るよ。僕は校舎の中に用事があるんだ。まったねー」

「……ああ、そうかよ」



にっこり笑って助手は手を振り、ルベルの元から離れて校舎へ駆けていった。
ルベルは助手に言われた通り、体育館の裏に向かって歩く。

そこにサブラージはいた。

ぐったりと背中を壁につけたまま座っている。一見すれば寝ているようだ。だが、これは、どう、見ても、。



「おい!!サブラージ!!」

「……ぁ、ルベル…。」



あちこちにアザや血を滲ませるサブラージがゆっくりルベルをみた。
体育館に呼び出され、着たところを襲撃されたのだろう。男たちの手ではなく、黄果によって。黄果は基本的に戦うことはできないが、相手が不利の状況ならば黄果は相手にダメージを与えたりする。

たとえば拷問、処刑。

サブラージがこんな風にされた細かい状況はわからないが、ルベルは怪我人をどうすればいいのかわからず、とにかくサブラージの怪我の具合をみることにした。




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