Situation assessment
 




「その程度なんですね」



悲しそうな表情をして黄果は踵をかえし、廊下へ繋がるドアの取手を掴んだ。紫音は壁とくっつけていた背を話、煙草の煙を吐く。



「貴方の意志が決まるまではこの状況に変わりはありません。ルベルは奪還屋。私たちはハイジャック犯。中学校奪還のためにがんばってください」

「――――っどういう…!!」



放送室の重たいドアを開けて黄果は部屋を出ていった。

ルベルがその背を追い掛けようとしたが、紫音が遮った。右手に握るのは黒く光を反射させる拳銃。銃口は正確にルベルの額へむけられていた。
紫音から感じるものは、殺気。



「昔は仲間でも、今の立場では敵同士だ。」

「しお、」

「まさかルベルが誘いの返事を延期させるとはな。即答で仲間になると思っていた。あの時のルベルは嘘だったのか。」

「そんなわけねぇだろ!!俺は、俺は…っ」

「再会がこんな形になろうとはな…。覚悟しろ、奪還屋!!」



拳銃の引き金に人さし指は触れなかった。しかし紫音の回し蹴りがルベルの横腹に入る。至近距離で避けられなかったルベルはそれを食らって数歩後ずさった。



「ゲホッ」

「休みはやらんぞ!」



咳き込むルベルへ紫音の脚蹴りが連続で続く。
ルベルは後退して避け、壁に背中が近づくと上着に潜ませていたナイフを持ち、攻撃に転じた。

ナイフを握ったルベルは紫音の脚を伏せて避けると横へ移動して、ナイフを横へ薙ぎ払った。それを紙一重でかわした紫音は引き金をひき、ルベルへ発砲する。それを回避してルベルは紫音へ向けてナイフを放つ。真っ直ぐとんだナイフを拳銃で弾き紫音は銃弾を装填し直すと再び発砲した。



「おい、紫音!!ハイジャックなんか止めろ!!」

「うるさいぞルベル!」

「その発砲音の方がうるせぇよ!!」

「私たちがどれだけマフィアを恨んでいるのか十分わかってるはずだ!」

「ああ、わかってる!!けど宣戦布告はもうしたんだろ?だったらもう退け!」

「情報機器で報せただけでは足りん。本気だという事を見せる!!」



紫音は片手で拳銃を扱いながらもう片方の手で服の裾を少しだけ持ち上げた。そこから取り出したのはもう一丁の拳銃。
彼女は二丁拳銃使いだ。



「何がルベルの邪魔をしているんだ…」



そう呟きながら。発砲音でかき消されたその声はルベルに届かない。



「ッチ」



ルベルは舌打ちをして放送室のドアを開けて廊下へ出た。放送室では狭いと判断したのだろう。その後を紫音が追う。

ルベルは吊っていた拳銃を右手に持ち、後ろで自分を追う紫音の脚に撃つ。紫音はそれらを見切っているのか、避けていた。



「全然当たんねぇ!!」

「ルベルはわかりやすいからな。」



ルベルは走るのを止めて拳銃をしまい、袖に隠していたトンファーを武器にした。ルベルは遠距離戦よりも近距離戦の方が得意分野だ。
近付くルベルに対し、紫音も拳銃をしまってベルトの内側に持っていたナイフを構えた。

ルベルは紫音の首を狙ったが、それは回避され、逆に狙われるとトンファーを防御に使った。
二人は、ほとんど互角の戦闘を繰り広げていた。

そこへどこからか別の発砲音がした。

二人は動きを止めて、窓に向かうとそこから見える校門には黒いスーツ姿の男が何人も拳銃をもって居た。
紫音は悔しそうに舌打ちをする。

それから紫音は体育館へ弾かれた様に駆け出した。ルベルは一瞬遅れて紫音の背を追った。




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