紫と黄
結局、左都をロッカーに入れてルベルとサブラージはともに行動することになった。二人は共闘というよりも「依頼だから仕方なく」「学校のため」と目的がほぼ同じだから行動を共にしているだけだった。
「オニーサン、助手と暮らしてるの?」
「今だけな。」
「情報貰いたい放題じゃん。うやましー」
「よく考えてみろよ、あの金の亡者がタダでくれると思うか?」
「前言撤回」
金の亡者、とは言い過ぎだが情報屋の助手は報酬がない限り仕事はしない。無料の範囲内である情報は会話の中に酌ませたりするが、それ以外はちゃっかり報酬を貰う。
ルベルとサブラージの会話は廊下を進むにつれて減っていった。校内は異様なほど鎮まり、生物の息を感じさせない。 それは居心地が悪いもので、違和感さえも与えた。
注意深く辺りを警戒しながら歩む二人の耳に物音が届いた。
「……、放送…?」
「放送?ンだよ、それ」
「放送だよ。校内へ何か報せる…。」
ブツ、ブ ツ、と何度か放送室の何かを構う音がするとそれらは止み、今度はキィィと高すぎる音がした。ルベルは耳を塞いで、何がなんなのかよくわからない様であった。
『、………ぁ…ー…っ、あー、やっとかかったか。私は機械に疎いんだ。貴様が…』
『紫音、これ放送かかってます。声聞こえてますよ。』
『な…それは早く言ってくれ、黄果』
『それはそれは、失礼』
そんな会話が放送かかっている時、ルベルは目を丸くして驚いた表情をしていた。サブラージはそれに気が付かない。
「……紫音、と黄果って…」
ルベルの表情は驚愕の一色だった。 サブラージはルベルの呟きに気が付き、どうしたのか聞こうと口を開いたのと同時に放送が再開された。
『校内を出歩く中学生に告げる。いますぐ体育館へ戻れ。10分以内に戻らなければ人間を1分ごとに殺す。』
少年のような低い声が校内に響き渡り、ヒンヤリとサブラージの身体を冷やす。
『冗談だと思うな』
それだけ残して放送は切れた。
「……ッ…」
サブラージは歯をくいしばり、眉を眉間に寄せて悔しそうにした。「卑怯者」そう言いたいが、サブラージも似たような仕事をしているせいでそれが言葉にできない。 サブラージも人質をとったりしている。立場が逆転するだけでこんなにも違うのか、とその感情に侵食されていた。
「冗談を言っているように思えねぇな。報酬が減る。サブラージはさっさと、う…、う…、まあ、さっき会った奴と合流して体育館に戻れ」
「……左都だよ。う≠ネんてどこにもないから」
後は任せた、と強く宿した目をルベルに向けてサブラージは来た廊下を走って戻っていった。 サブラージは袖に短剣を隠しもっている。素直に従わないだろう、とルベルは思いながら真っ直ぐ先を進んだ。
目指す先は放送室。
(もし、まだ紫音と黄果が居るなら…)
聞きたいことができた。
なぜ二人がこんなことをしているのか。
ルベルは放送をしていた紫音と黄果の二人と面識があった。それ以上にその二人は友であり、かつての仲間。
「何をやってんだよテメェら!!」
放送室のドアを開けると同時にルベルは怒鳴った。中には紫音と黄果がいて、ちょうど今から出ようとしている頃だ。
「久しぶりだな、ルベル。」
狼狽えたり、脅えたりすることなく紫音は煙草に火を灯した。 彼女は先刻、サブラージと一戦交えた女性だ。
その横では白衣を着、黄色いだて眼鏡を頭に掛ける黄果が放送室の鍵をクルクルと回していた。
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