奪還屋と回収屋
 



「私はここだよ!!捕まえてみろぉぉおーーー!!この単細胞!!」



窓を開けて顔を出し、サブラージは大声で中庭に叫んだ。頭がイってしまったわけではない。

叫んだあとすぐに頭を引っ込めてサブラージは、すぐにその場を離れた。そして階段の下にある段ボールが無造作に置かれた踊り場に隠れる。



(あの男たちがルベルみたいな単細胞なら、)



サブラージには考えがあった。

中庭で大声を出せばその声は反響し合い、どこから発せられたのか分からなくなる。それをいかし、サブラージはわざと挑発するようなことを叫んだ。サブラージの思った通り、男たちが単細胞ならば手分けしてサブラージを捜すはずだ。



「どこだクソガキ!」

「ガキ、がき、餓鬼って、なんでみんなそう呼ぶの…!」



サブラージは多少感情を露にして手榴弾を投げる。手榴弾は男の胸に当たり、爆発。サブラージはせの場からすでに離れていた。同じようにして、他の3人も爆死させた。

次の標的を待ち伏せしていたサブラージへ近付く足音。サブラージはジッと待ち構えた。
人影がサブラージの視界に映る。手榴弾を投げようとした瞬間、ピタリと手が止まった。



「え…、オニーサン!?」



見慣れた人影。
それは毎晩のように死闘を繰り広げている相手、奪還屋のルベルだ。
ルベルもサブラージに気が付いたようで「あぁ゙!?……ってマセガキか」と落胆したようだった。



「なんで…、オニーサンが」

「俺は依頼を受けたから純粋に仕事してるだけだ」

「……純粋、ねぇ…」

「つかさっきトイレでガキ拾ったぞ」

「はあ?」

「名前はう…、う、う……なんだっけ」

「左都」



ルベルが「う」を連呼していたが、背後から別の声が正解を言った。
サブラージは目を丸くして驚く。先ほどトイレで別れたばかりの親友。しかも隠れてろと言ったのに出てきている。

ルベルの背から現れたのは少女にしては身長が高い左都。彼女は確かに、サブラージの親友である左都。サブラージは驚愕が怒りよりも上回り、何を言えばいいのかわからなかった。



「ごめんねサブラージ。約束が…」

「……出てきちゃったものは、しょうがない……けど、なんで二人が…」

「トイレから血の臭いがしたから行ったらう…、左都?が居たんだよ。」

「そうそう。私がいる隣のドアに向かって言っ……、あははは!」



サブラージにはよくわからなかったが、とにかく左都が楽しいことだけは理解できた。ルベルは左都に慣れていないため、なぜこの状況下で一般人が楽しそうでいられるのかわからなかった。



「お前らはどっかに隠れてろ。俺がなんとかする」

「ばっかじゃないの!?」

「じゃあ、う…左都はどうするんだよ!お前が側にいてやらないと駄目だろ!!」

「でもルベルだけじゃキツいって!ザコなら平気かもしれないけど、あいつは…」

「俺が弱ぇって言うのか!?」

「…っ、弱い!力任せじゃ通らないことがある!!」

「俺のやり方に口だしすんな!!一般人は黙ってろ」



ルベルとサブラージが言い争いをする中、左都はふぅ、とため息をついた。そして二人に「あの…」と声をかけるが、二人には届かない。左都はもう少し大きい声で言う。そこで二人は言い争いを止めて左都の方を向いた。



「二人の関係とか、なにをやってるのかわからないけど、私なら大丈夫だから。」



気を使っている、というよりも左都は一人になりたいようだった。ルベルはそれに気付かないがサブラージはそれを悟る。
それと同時に回収屋をやっていることがバレかけて若干焦った。



「掃除のロッカーに入ってるから、ね?」



冷静を装った左都の胸の中は、楽しくて愉しくて踊り狂っているところだろう。




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