中学校奪還依頼
 



はぁー、と盛大にため息をついたルベルは頭をかきながら立ち上がった。

つい五分前、中学校がある西区を根城にしているマフィアからルベルに「中学校を奪還してほしい」という依頼があった。ハイジャック犯から宣戦布告を受けたんだろう。ルベルはさきほど脱いだ上着を着て、武器を装備していく。
マフィアは嫌いだが、仕事ならばそんな事言っていられない。



「がんばってねー」



ひらひらと手を振る助手を見ながらルベルは所持物の確認をした。



「つかなんでマフィアは自分から動かないんだよ」

「彼方さんにも事情があるの。マフィアが動くよりルベルが動くほうが効率いいんでしょ」

「ふーん」



ルベルは曖昧な返事をしてドアノブに手を掛けた。「学生と教職員とかは体育館にいるからね」といった助手に一度だけ目を向けてからルベルは部屋を出ていった。

夜にも仕事を控えているルベルは「今日は忙しい」とぼんやり考えていた。

歩道へ出たルベルは固いコンクリートを蹴った。中学校まで一直線だ。



(急げ急げ急げ!!)



自分を急かしてとにかく急ぐ。
中学校が目の前に迫ったときルベルはふと、どうして俺は急いでるんだろうと首を傾げた。別に誰かが撃たれる直前ではないんだし、急がなくても大丈夫なのでは、という考えが浮かぶがそれは一瞬だけだった。



「んだよ、これ…」



校門を通りすぎようとしたときに赤く広がる何かが見えた。
数歩もどり、ルベルははっきりとソレをみた。辺りに漂う鉄の香りが鼻につん、と刺激を与えた。

赤いそれは大量の血。そしてその先にあるものはもちろん、死体。



「なんで死んでんだ?……つか、こいつ…」



近寄って見てみれば、その死体は少女を誘拐した奴らと同じ格好をしていた。
ルベルはグルだったのか、と思いながらさらに死体を観察することにした。血が流れているその元は首からだった。うなじから覗く血と桃色の肉がルベルの視界に入る。



「一撃かよ…」



切り口の長さからして、ナイフか短剣類による怪我だということがよくわかった。
取り合えずルベルはその死体を無視して校門を出、裏口へまわった。そこにも死体が横たわっていてルベルは眉をひそめた。
細かい死因はわからないが、手口が同じであるため、同じ奴が殺したことがよくわかった。

ルベルは「気味悪ぃ」とひとこと呟いてから、気配を殺して校舎へ入っていった。



「………。」



無言、というか、校舎の中は無音だった。誰かが囁く声もなければ息をする音も聞こえない。外と壁で遮られているせいか、奇妙なほどに音が無かった。

ルベルは音を鳴らさないように注意しながら体育館へ進んでいった。その途中、血の香りに空間を支配されている場所があった。それが気になり、辿っていくとそこは女子トイレ。
なぜ女子トイレから匂うんだ、と疑問が浮かび上がり、ルベルは立ち入った。タイルでできた床は血が散乱していた。その近くにはモップが落ちていて一時的に誰かが掃除していたことを伺わせた。

血はトイレの個室から流れている様だった。その個室は鍵が閉まっていて開かない。

ルベルは短刀を鞘から抜き、右手で握り締めながら「誰か居んのか?」といつもより潜めた声で、誰にでもなく問いかけた。ガタ、と何かが動く音がしたあと、布が擦れる音がした。



「何もしねぇから」



ルベルは個室にいるのがハイジャック犯である男……、人造人間ではないと勘でわかった。ただの感覚であるため、確信はないが。

しばらくすると、カチという音をたててゆっくり個室のドアが開いた。……隣のドアだが。




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