Encounter
 





長い、沈黙した廊下を走り抜ける少女がいた。サブラージだ。足音をたてずに高い身体能力で弾き出したスピードで走るサブラージは、さすが回収屋といえる。
サブラージが曲がり角を曲がった丁度その時、バタバタと複数の足音が遅れて廊下へ侵入した。

サブラージが走るここは二階、彼女を含む二年生が使用している所だ。地の利でサブラージは校内を知り尽くしているため、迷うことなく走るが追い掛ける足音は多少の戸惑いが見える。


(まだ奴らと距離がある……。隠れる場所を捜さないと)



スピードを緩めずサブラージは辺りをキョロキョロと見る。毎晩のようにルベルから逃げているため、逃げることに関しては慣れていた。サブラージは取り合えず教室に入り、ベランダへ出た。

サブラージ追い掛ける男、つまりザコたちは暴言をたまに吐き捨てながらサブラージが隠れているそこを通り過ぎる。

サブラージは彼らがルベルと同等に単細胞でよかった、と思いながらそっと教室戻る。そこでここが自分の教室だということに気がついた。



(ちょうどいい)



サブラージは身を低くしたまま無音で自分の鞄に近付き、手榴弾を取り出していくつか自分に装備した。


サブラージがこうして逃げることになった理由は数十分前に遡る。












サブラージは左都と別れ、トイレから出たあとまず学校を見渡せる屋上へ出た。敵の配置をそこで確認していたのだ。
校内を循環しているのが5人。校門には各一人ずつ配置。あとは生徒や教師などが集められている体育館だ。

手始めに循環していた5人の男を暗殺したサブラージは校門で立っている男たちのもとへ向かった。
その道中、渡り廊下で偶然に出くわした女性がいた。
眼鏡をかけていて、煙草を吸う女性。髪は左都より少し長いくらいの銀髪。妙な威圧感を放っていてサブラージは何を言えばいいのかわからなかった。



「お嬢さん、ここでなにをしているんだ?」



声は少年のような低さ。外見がわからなければ男だと錯覚してしまうものだった。

サブラージは一瞬固まっていて、はっと我にかえった。学校の教職員だとは思えない。というか見たことがなかった。それに体育館に集められていないということは、この女性はハイジャック犯の一人なのだろう。



(そういえばこの声…。さっきステージ裏から聞こえた声と同じ……)



さきほどは男と勘違いをしてしまったが、声主は女性。さらには目の前にいる。サブラージは警戒心を高め、短剣を構えた。



「物騒だな…。それに私の質問に答えて欲しい。」

「貴女こそ何をしているの?」

「質問に質問で返すのはあまり関心できんな。」



ふぅ、と煙草独特の香りと共に息を吐いた女性は右手を腰に当てた。
サブラージは女性を睨んだまま一歩も引かない。



「私は連絡が途絶えた仲間の様子を見に来た。次はお嬢さんの番だ。」



血が這った短剣を眺めながら女性はあえてサブラージに言わせる。サブラージは「ハイジャック犯を殺しに来ただけ」と簡素に答える。
女性はそうか、と上の空だった。
だから



「ならば死ね」



という言葉を理解するのに時間がかかった。

女性はスキをみせたサブラージへ突っ込み、蹴り上げようとしたがサブラージが紙一重でなんとか避ける。しかし女性はその場でくるりと回転しその勢いで右へ避けたサブラージを右手で薙ぎ払う。

サブラージはその攻撃を腹に受け、その場で膝をつき胃のなかにあった物を吐き出した。



(攻撃が重い…。さっきの男たちとは実力が桁違い。)



サブラージが膝をついたのを見て動きを止めていた女性は携帯端末を取り出してなにやら連絡をとりはじめる。
サブラージは息が苦しく、とても動ける状況ではなかったが逃げるには今がチャンスだった。

こんなところで休息していたら後で確実に殺される。サブラージはゆっくり膝をたて、陸上選手が走り出す前のスタートラインにいる時のような格好をした。腰は下げたまま、地面を蹴った。
女性が「待て!!」と怒鳴った気がしたがサブラージはそんなこと、渡り廊下を抜けた頃には忘れていた。




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