人造人間
パチンと携帯電話を閉じた助手はそれをしまってため息をついた。 助手が情報屋に電話をしてハイジャックについて新しい情報を得ていたのだ。
食べていたうどんは片付け、すっきりとしたテーブルに座る。ルベルと助手は互いが向き合う状態で座っていた。ルベルはダルそうに「あ゙ー」と唸っていた。
「ハイジャックくらい大丈夫だろ。」
「そう楽観してられるのも時間の問題じゃない?」
「どういう事だよ」
ルベルは、はぁ?と思ったままをそのまま表情にした。それを眺めながら助手は「だってさぁ」と話の続きを話しはじめた。
「いくら回収屋が居るからって一人でどうかなる訳がないでしょ?回収屋なんか捕まっちゃう。」
「……。相手の戦力はどれくらいなんだ?」
「恐らくだけど、ザコは30人前後。」
「ザコ、は?」
「そう。他にあと二人、ザコよりも圧倒的に強い奴が居る。」
ルベルに見せた写真には同じような格好をした男しか写っていない。どういうことだ、とルベルが聞こうとしたが助手はにっこり笑っていた。
「情報料」
「てめ、どんだけ俺から取るんだよ!!殺すぞ!」
「ルベルがいうとシャレにならないよ。恐ーっ。でもここまで話すだけでも情報料をもらうべきなのに貰ってないんだよ?僕。それを思えばお得だよ」
「……どこがお得、だぁぁぁ!!泊めてやってんだからそれで十分だろ!!」
「それはそれ、これはこれ。」
端正な顔でにっこり笑われれば文句を言えない。ルベルの必死な抵抗もむなしく、結局は金をとられることになった。別にルベルは胸をうたれた訳ではなく、端正な顔で笑みを浮かべられ、呆れ、脱力したのだ。 そんなことを思いながら助手に現金を渡すと「まいどありー」と返事があった。
「で?」
「今回ハイジャックしてるのは組織。目的は各マフィアへの宣戦布告だってさ。」
「それに中学校を利用したのか?」
「そう。」
「ご苦労なこった。」
「けれど組織には5人しかいないはず。ザコだろうとどうしてあんなに人材を用意できたのか」
「……なんでなんだよ」
「組織の内に天才的な科学者がいるんだよ。」
「はあ?」
科学者なんか関係あんのかよ。
とでも言いたげなルベルの表情は助手にハッキリと伝わった。 助手は表情豊かだな、と客観的に思ってルベルの表情変化を面白く思いながら続きを話した。
「ルベルって、人間を造る事ができると思う?」
出来るから俺らが居るんだろ。とルベルは言ったが助手は首を振った。
「そうじゃなくて、そう言うんじゃなくて。意図的に。生物が生物を産むんじゃない。」
「?」
「人造人間」
頭がこんがらがってきたルベルを見計らい助手は直球でいうとルベルが間抜けな顔をした。
「漫画で人造人間って知ってるんじゃない?」
助手がルベルの本棚に目をやる。そこには漫画がずらりと一列に並んでいた。その背表紙にはとある名作のタイトルが書かれている。これは助手も読んだことがあり、人造人間が出てくる話だったのを覚えている。
「漫画は漫画だろ。」
「そうなんだけど、組織にいるその科学者は人造人間を生み出しちゃったんだよ」
「なんでだ?」
「そんなことは知らないよ。エスパーじゃないんだから。」
「エスパーじゃねぇのかよ。」
「僕をなんだと思ってるわけ?」
「んで、その人造人間が?」
「中学校のザコってわけ。」
ルベルは助手にちょっと待て。と時間を貰った。
人造人間を造るのにどれだけの力が必要なのかわからないが、相手はそうとう強いかもしれない、と思った。 最優先は奪還。
相手を殺すわけではない。ルベルは今から覚悟を決めはじめた。
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