Noon
 




ゴシゴシ



「隠れてろって、無理いわないでよ」



ゴシゴシゴシゴシ



「あー、めんどくさ」



ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ



「やーめた」



カランカラン

トイレの床を掃除していたブラシから手を放した。髪を肘より少し上まで伸ばした左都は転がっている死体の上に座った。

彼女は血を掃除していたのだ。



「あ。」



左都は気が付く。
掃除していたのは、ここを掃除の担当場所にしている生徒が驚かないようにするためだった。だが、死体を回収したりするのはそれ専門の人たちだ。生徒がやるわけではない。



「私の労働を返せよー。もう、余計なお世話だったじゃん。」



思考がだだ漏れの左都は膝に肘をたて、人気がないトイレでため息をついた。

そこに携帯電話が鳴る音がした。バイブだったので実際は音は鳴り響いていないがバイブ独特の音で着信を知った左都は、制服のポケットから携帯電話を取り出した。



「はい、もしもし」



画面に表示された文字を見て、少し携帯電話を弄ってから電話に出た。
左都が想像していた通りの声がして左都は口角を歪めた。





















依頼者に連絡をしたところ、少女は依頼者の元へ届けて欲しいと返ってきた。電話の際、少女の声も聞かせると両親は大変喜んだ。

ルベルが少女を無事に届け、コートを返してもらい、報酬も貰ってから帰った。帰って情報屋助手から情報を一刻も早く聞こうとした。そこでサブラージが通う中学校を通り過ぎようとし、足を止めた。

助手はここが占拠されたと言っていた。それがルベルの頭を過ったのだ。



「……何かの冗談だろ…。」



中学校は普段と同じく静まり返っていた。普段は中学生たちが教室で授業を受けているはず。学校へ行くという経験がないルベルはそれが容易に想像できなかったが。


しばらく中学校を見ていたルベルは再び歩き出した。と、そこへ前方からワゴン車がゆっくり近付いて来てルベルの横で止まった。窓が開かれ、運転手が顔を見せる。スポーツ選手が付けていそうなサングラスをした30代くらいの男だ。



(………防弾チョッキ…?)



その男は防弾チョッキを着ていてすぐにルベルは一般人ではないと直感した。ももかしてさっき殺した男が言ってた増援か?と冷や汗を流した。



「ここら辺に中学生くらいの女の子を連れた男はいませんでしたか?」

(当たりか。ていうかこんな風に聞き込みして捜すモンだったか?)



ルベルは首を傾けて考えたが、考察することが苦手であるため五秒ともたなかった。



「知らね」



取り合えず彼らの返事だけ済ませるとルベルは帰路につく。ワゴン車はルベルの返事を聞くと中学校の中へ入って行った。

もうそろそろ正午に差し掛かる。ルベルは仕事ではないし、どうにかなるだろうと中学校を通り過ぎた。アパートに帰ると、部屋でうどんを食べていた助手と目があった。助手は「ん。」ともうひとつのうどんを指さした。ルベルの分だろう。ルベルはコートや武器を別のテーブルに置いてから、うどんに手をつけた。



「中学校、通った?」

「いつもと変わらねぇよ。ハイジャックされたなんて雰囲気はねぇぞ」

「ハイジャックされたっていう雰囲気だしたら治安組織に捕まるでしょ。証拠はコレ。」



助手はルベルへ何枚か写真を渡す。
ルベルはうどんを箸で器用に食べながら写真を見た。写真には教室にマシンガンを持った男が生徒を脅している様子が映し出されてていた。
男の装備している格好は、ルベルがワゴン車の中で見た男と同じであり、少女を誘拐した男たちとも同じだ。

写真の右下には今日の日付が刻まれている。



「今はもう破壊されちゃったみたいだけど、それは監視カメラから撮った写真。」



助手が言った言葉ひとつひとつがルベルの耳へ頭へ脳へ浸透していった。




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