切り裂き少女
 




トイレの個室にサブラージと左都がそれぞれ入った。トイレの入口には武装した男が二人いる。



「あの、すみません」



サブラージが個室のドアを開けて外にいる男を呼んだ。
男たちは呼ばれるがままにサブラージのところへ来た。子ども、しかも女であるからか、ナメられている。こんな役をするのは大抵、下端のザコばかり。

サブラージは瞬時に考え付いた簡単な作戦を開始した。



「このトイレ壊れてるみたいなんです。」

「あ?他のトイレに入れよ」

「貼り紙はないですけど、他のは壊れてるんです」



男のうち一人が自然な動きで便器に近付き様子を見はじめた。もうひとりの男は個室のドアの近くに立っている。
サブラージは何気なく便器の正面、ドアが開いた個室の正面の壁にもたれ、それを眺めていた。

両手を後ろにまわしていた。その手には、静かに袖から滑り落とした短剣が握られている。

キッとサブラージの目付きが変わった。
それは仕事を遂行する時と同じ眼だった。



「私は制限とか、好きじゃないの」



そう呟いたサブラージの声はあまりにも小さく、誰にも届かなかった。

言い終わると同時に、否、それよりも少し早くサブラージは踏み込んだ。自分の低い身長と跳躍力を生かし、下からの突き上げが得意なサブラージは今回もそれをつかい、ドアにたっていた男の喉を切り裂いた。
切り裂かれた男はまさかサブラージがそのように攻撃してくるとは毛頭も思っていなかったのか、声を発することなく、抵抗も出来ない間に血を吹き出した。

少しだけその血で濡れたサブラージは続けざまにもうひとりの男を狙った。

サブラージの方に背を向けて膝をつけている男は倒れるような音がして振り向こうとしたが、喉に嫌な感覚があって振り向くのをやめた。



「素直に答えないと殺すからね」



トーンを低くしたサブラージの声が冷たく響き渡った。男はサブラージを振り払おうとするが、短剣が喉に当たり、少しでも動けば首に食い込みそうだった。



「あなたたちはマフィアじゃなくて、組織の人だよね?なんのためにこんなことしてるの?」

「……っ、別地区のマフィアどもに宣戦布告、を……!!我々は本気だと、」

「……。じゃあ」



サブラージが気になっていた人材の質問をしようとした。
本当は少人数のはずなのにどうしてこんなにも人が居るのか、と。だが、それは3人目の介入によってできなかった。



「随分と愉しそうなことをしてるけど、何してるのかな?」



サブラージが聞き慣れている左都の声だ。つい先ほどまで存在を忘れてしまうくらい気配がなかったのに、いつの間にかサブラージの真後ろに立っていた。
物音ひとつたてずに。

サブラージにはそれがいつもの事だったため、とくに驚きはなかったが、男は体をビクリとさせた。その勢いで短剣が喉に傷をつけてしまったが。



「……左都、」

「なになに、私もまぜてよ!」



先ほどの第一声の時に放った冷たく、悪寒を感じさせる声はどこかへ消え、いつもの無邪気な左都になった。

左都はサブラージが短剣を持って男を脅していることに疑問を抱かないようだった。それにドアの前で血を流して死んでいた男は視界に入っていないようで、普通に、これが常識だといわんばかりに、床と同じ扱いをしていた。サブラージはそんな左都に驚いたが、彼女自身は何にサブラージが驚いているのかわからない様だった。



「左都はここを動かないで。私は外に行って警察呼んでくるから」

「りょーかい。」



サブラージは左都の発言を無視して、大人しくするように頼んだ。左都はあっさりそれを承諾。
サブラージは目の前の男の喉を斬り、左都に短剣を念のために持たせてからトイレを出た。




|