脱走逃走
「なんなんだよ、今回は……!!」
ルベルは足元に転がる死体を見下ろしながら呟いた。先ほど睨みあっていた男だ。
ルベルは増援が来る前に逃げ出そうと、まず横たわっていた少女のもとへ寄った。少女はルベルが男と戦闘を行っている間に起き上がり、脚の怪我のことも含めて状況がよく分からず放心状態になっていた。
「大丈夫か?」
「…や!!」
「っわり!!」
そういえば少女は服を着ていなかった。少女は体操座りをするように身体を丸めて必死で隠す。ルベルはすぐに後ろを向いて混乱していた。
(くそ、奪還屋じゃなくて回収屋に頼めよ依頼者…!!)
若干逆ギレしながらルベルは上着を脱いで少女へ投げた。「え…」と少女の驚いた声がする。ルベルは「着ろ」と短く、簡潔に伝えた。 長身であるルベルの上着は丈が膝上まである、長いタイプだ。少女が着れば誰が見ても奇妙。
しかし少女の全身を隠すには十分な長さだった。少女は「すみません」と言ってから袖に腕を通す。
ルベルは少女に背を向けながら、なんともいえない気持ちに浸っていた。サブラージと同い年の少女に色気など感じないが、恥じている少女をみてガキでも女なんだな、と思っていたのだった。
「……あの、」
「うおぉ!?」
「あ、すみません…」
内気な少女なのだろう。蚊の鳴くような小さな声でルベルに話し掛けた。ルベルと少女の距離は物理的にかなりあいている。
「助けてくれたんです、よね…」
「そりゃあな。」
「ありがとうございます…。これも貸してくださって…」
ルベルのコートを見てから少女は見上げた。
「お前、なにかされたか?」
「……………っ、なに、も…」
「怖いのか?」
「へっ…」
「怖いんだろ…俺、いや、男が。それなりの事をされたんじゃないのか?」
「そん、なことは…」
自分を助けてくれた恩人ともいえるルベルに失礼なことはあってはいけないと少女は戸惑う。だが、それをつい最近植え付けられた恐怖が邪魔をしていた。
「無理すんなよ。とりあえずここから出るぞ。奴らはまた来る。歩けるか?」
「は、はい」
気にする素振りをみせずルベルは少女の前を歩いた。少女もルベルのあとについていく。時おりコートのポケットからぶら下がる十字架がカチカチと音をたてた。
ルベルはライフルを強く握りしめながら耳をたて、慎重に歩く。廃墟から出て、大橋の下を歩いていた。そこでルベルは立ち止まる。
「悪ぃ、電話だ。」
「あ、はい。どうぞ」
ルベルはバイブで揺れる携帯電話を耳に当てて発信主と少しだけ会話をしたあと切った。
くるりとルベルが少女の方を向いた。
「目ぇ閉じてろ。ついでに耳も塞いどけ。」
「えっ?」
「嫌なら強制的にやる」
手刀をつくり、少女の首筋へ手を伸ばす前に少女は目を閉じて耳をふさいだ。 ルベルはそれをみるとゆっくり少女の横へ移動し、横抱きにして抱えてから走った。 少女は状況がわからなく、目をそっと開けようとしたがルベルに止められた。
ルベルに電話をしたのは情報屋助手だった。彼は単刀直入に『組織の事がわかったから後で教える』と言い、そのあとに『あと、回収屋が通ってる学校がハイジャックされたよ。組織の仕業だね。そういえば、ここから君が見えるけど……凄い集団に追われてるね。トラックに気を付けて。』と付け加えた。
ルベルは追われてる、という発言で少し焦った。男が言っていた増援だ。
(―――つーか速すぎるだろ)
少女を抱えたルベルは常人と比べて圧倒的にこえる速さで走り抜ける。 少女を安全な場所に届けるために。
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