脱け出
 





体育館にはサブラージたち、中学生と教員が集められていた。
一帯を見渡せる高い場所、ステージにはこのハイジャックを行っている犯人がマシンガンや拳銃を持って立っていた。

サブラージがざっと数えただけでも多い。



(これだけの人材、どこから…。)



横でそわそわしている左都と手を繋ぎ、サブラージは思考を巡らす。
犯人の指示通りに指定された場所に座り、サブラージたちクラスメイトは大人しくした。逃げていった生徒も残らず捕まっているようで、別の場所に集められているのを確認した。女子は大人数で片間って震え、男子も個々に恐怖と戦っていた。

いまや体育館は恐怖で満たされ、抵抗できないでいた。

サブラージは普段から死と隣り合わせにいるような仕事、回収をしているので武器に対して恐怖はない。漂う殺気も慣れてしまっている。

だが、抵抗する術が思い付かない。予想外の敵の数、人質になすすべがなかったのだ。だがこのまま大人しくしている訳にはいかない。



「……これからどうなるんだろう…。」

「わからない…。」



左都への返答は曖昧。

左都は外面こそ大人しくしていて恐怖と戦っているようだが、やはり愉しそうだというのはサブラージにはわかった。そしてこんな状況でも愉しそうでいられる彼女にすこし恐怖をおぼえた。



「これで全員か?」

「はい。」

「ご苦労さま。見張りを頼む。」

「はっ」



ステージの袖からもれた声にサブラージが顔を見上げた。
サブラージがたまたまステージの近くに座っていたから聞こえたのだが、その偶然にサブラージは集中した。



(声からして男でこのハイジャックのリーダー。マフィアにこんな事をする奴らはいない。いたとしても下端。でも下端がこんなこと出来るはずがない。じゃあ、これは組織の仕業か…?)



険しい表情をしているサブラージを置いて左都は辺りをきょろきょろと見渡していた。
これからジェットコースターに乗る子供のような気分で。

一通り見渡し、飽きたのかその後はサブラージの観察に入った。



「ねえサブラージ」

「……どうしたの?」

「私たち、絶対に食料とかもらえないよね」

「そりゃそうでしょ。そんなに親切なハイジャック犯はいないとおもうけど」

「餓死するんじゃないかなって。それはそれでウケるけど」



いたって真面目な顔で聞いてくるものだからサブラージは比例して困惑の表情を浮かべた。



「じゃあトイレにも行けないよね…」

「……っ!!」



左都の両肩を掴んでサブラージな前後に動かした。左都は「うわあぁぁあ」と小さな声で呻くがサブラージの耳には届かない。



「そうだよ、うん。そうだ。ナイス。素敵だよ左都っ」

「な、何が…」



コソコソと小声で話し合いながらサブラージたちが騒いでいるとマシンガンをもった男に怒られた。
近くの女子は小さく悲鳴をあげたりしたが、サブラージは狼狽えることなく平然としていた。犯人はそれに多少驚いていたが、すぐにそれはなくなった。



「あの、お手洗いに行きたいんですが」

「私も私も」



サブラージがすこし遠慮がちに聞くと犯人は「我慢しろ」という。左都はよくわからなかったが、繋いだ手が強くなった気がしてとりあえずサブラージに協力している。



「もう駄目なんですよ…っ、家のトイレが壊れてて!」



左都が必死の演技をしていてそれが利いたのか犯人はリーダーに掛けより、許可を得た。サブラージと左都は犯人を連れた状態でお手洗いに向かった。



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