情報交換
 



真っ白い、健康的な肌。
衣類を一糸も身に付けていない少女の身体がそこにあった。周囲には彼女が着ていただろう衣類はない。
いま、彼女の脚から温かみをふくむ深紅の血が流れていた。

血が描く円はゆっくり大きくなり、それに比例して奪還屋であるルベルの怒りも大きくなる一方だった。



「テ、メェ……!!」



怒りで言葉を忘れていたルベルがやっと吐いた言葉がそれだった。

ルベルと対峙している男はルベルに銃を構え直し、不敵な笑みを浮かべた。
それをルベルが睨み付ける。
ライフルを握る力が強くなった。



「はっ、その程度でキレるのかよ。侵入者さんはよ。」

「………」



目の前で誰が怪我をしようと、誰が死のうとルベルは怒りをおぼえない。
奪還屋という仕事に就いている以上、仕事が終わるまで感情に左右されてはいけないとわかっているからだ。

今回もそのはずだった。

だが、今回はルベルにとって予想外の状況が起こっていた。
ルベルの中で眠る過去を呼び覚ますような。意図的に状況を揃えたのではないかと疑うほどに。

ルベルが奪還屋になったきっかけでもある、あの時と、似た状況……。

それはルベルの感情を乱すのに十分な状況だった。

















「絶対許さない。」



そう呟いたのは一人の少年。青年とも呼べる年頃。
彼には名前がない。いや、正確には名前を棄てた。

俗に、彼は「助手」と呼ばれている。
情報屋の助手をしていることが由来だろう。



『だからごめんなさいって何度も謝ってるじゃないですか。』



公衆電話の受話器から聞こえる声に、彼はため息をついた。
その声は無機質で、機械的で、感情がこもっていない。聞いているだけで彼は苛々していた。

電話の相手は彼の上司である。それ以上に親友という関係でもあるのだが。
そう、相手は情報屋。
個人情報が一切わからない相手だ。そう、年齢も、性別も。

世の中で情報屋の個人情報を一番多くもっているのは助手である彼だけだろう。

なにからなにまで謎だらけの情報屋の、この受話器から聞こえる声は合成音声。その声の元は、適当な通行人だ。
たまたま目の前を通り過ぎた学生を助手が呼び止めて、バイトと称したあやしい協力をさせた。



「嫌だよ。僕の給料を減らした罪は大きいから。お金って怖いね。」

『あなたの方が怖いですよ。お金が大好きな人こそ。執着するといいことありませんよ。』



情報屋の忠告を聞き、助手は「本題に入るけどいい?」と話題を変えた。



「北区の組織なんだけど…」

『あはははっ、私に聞かないとまだわからないのカナ?』

「ガキ扱いしないで欲しいな。」

『怒らないでよ、もう。僕を恐怖に震わせて愉しいんですか?』



彼はそれらを無視することを決めた。



「組織のことは大体理解できたんだけどさぁ、わからないところがあるんだよ。」

『えー。』

「何度調べてもメンバーは5人。誰かを雇うにも、そこまで資金はないはず。どうしてなのかな?」

『そのことですか。じゃあヒントあげます。』

「答えちょうだい」

『あげたらつまらないでしょう。』



ケチめ。

彼がいうと無機質な笑い声がした。『人生、たのしくあれ。』という名言付きで。誰の名言かわからない。そもそも名言かもわからないが。



『ヒントは、彼らの個人情報を事細かに調べればわかります。』

「それだけ?」

『はい。私のいうことを信じなさい。』

「嘘つき少年の話知ってる?」

『僕がそれだとでも?傷付きました。』

「ん、まあ、調べてみる。じゃあね」

『早く帰ってきてください。和食が食べたいです、部屋を掃除してください、洗濯物がたためません。むしろ洗濯機が使えません』

「壊滅的だね。」



彼は給料を上げてくれたらいいよ。と言い残し、一方的に受話器をもとの位置に戻した。




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