女帝
 



助手と白華の行く手を阻んだのは女帝だった。人払いがされているようで、周りには誰もいない。地下鉄の入り口への道は女帝一人が阻み、簡単に先には行かせてくれそうにない。
助手は白華よりも数歩先にでて、腰を低くした。左手を鞘に添え、右手で柄を掴む。
女帝は扇いでいた扇子をパチンと仕舞うと、肩から下げていた小銃を助手に向けた。



「逃がさないわよ」

「逃げ切って見せますよ」

「不可能よ。諦めなさい」



人差し指が引き金に触れた。助手は引き金が引かれると同時に白華に飛び込んだ。自分よりいくらか小さな白華はすぐに押し倒されてしまう。地面に倒れこみ、尻を強く打ったが頭は助手が手で守ってくれた。すぐ近くで銃声がする。

ちょうど、女帝の銃撃は倒れ込んだ際に壁となった停車した車が防いでくれており、攻撃は当たらない。



「いった……。なあ助手」

「独断で行動しないでね、白華。僕がすぐに女帝を引かせるから。絶対に一人で行動しないで、そこにいて」

「……あ、う、うん……」



助手は白華の頭を撫でた。白華は全力でその手を払った。



「子どもじゃねーぞ」

「そういえばそうだった」



助手は言い残して、銃撃の止んだ隙に物陰から飛び出した。女帝がリロードする間に間合いを詰め、懐に潜り込んで抜刀したのだが女帝はそれを助手の左側に避けることで回避したすると先ほどしまった扇子がバサッと開いた。小銃を肩から下げた状態で、女帝はその扇子を助手の首筋に振り降ろす。助手の想像を超えた衝撃が首筋に走った。

急いで助手は間合いをあけて首筋に触れた。傷が出来たわけではないらしい。扇子をにらむ。それは、鉄扇だった。一目ではわからなかったが、それは攻撃に特化した鉄扇。ギリ、と助手は奥歯を噛んだ。
堂々とした立ち居振舞いで女帝は再び鉄扇をしまう。そうやって油断させるつもりなのだろう。



「油断しては駄目よ?」

「助言ありがとうございます」



余裕を見せる女帝に、助手はふたたび突っ込んだ。接近戦でなきれば話にならない。

助手の一閃をかわし、女帝の拳が助手の頭目掛けて降られた。助手はそれを刀の柄で相殺し、そして刀を横に振る。女帝は屈んだ。女帝の頭の上を刀が通過し、髪を数本だけ切った。女帝は屈んだ際に助手の足に自らの足を引っ掻け、助手はバランスを崩した。ぐらっと世界が揺れて転倒しそうになる。小銃の銃口が助手に向くのがスローモーションにして見えた。
助手は左手を地面につき、左足を軸に右足を伸ばしてその場で回った。今度は助手が足を引っ掻けたのだった。女帝は素直に尻餅をついた。助手は座った状態のまま女帝の首に刀の切っ先をむける。



「一般人がよくやるわ……」

「元、ですけどね。降参したらどうです?」

「……断るわ」

「残念です」

「そうでしょうね。北区マフィア次期当主の私を貴方は殺せないもの。せいぜい苦戦するといいわ」

「腕や脚の一本や二本くらいは覚悟してくださいね」



ふたたび、互いが交戦を開始した。