人造人間
 



「ただいま」



白華が帰ってきたときにはもう日がくれており、病室から助手の声と左都の笑い声が聞こえていた。飲み物とお菓子類を手土産に帰ってきた白華のその荷物をみて左都が喜んだ。



「わあ! お菓子!」

「左都、今はだめだよ。もうすぐ晩御飯なんだから……」

「なんでいなんでい、助手は私のお母さんかっ」

「こんな大きな子、生んだ覚えはありませんよ」



助手は呆れながらも腰に手をあててため息を吐き出し、白華から飲み物とお菓子類を受け取ると病室の備品である棚のなかにしまった。



「……助手? フラーウスのこと?」

「そう。僕、情報屋の助手をすることにしたんだ。名前を棄ててね」

「どうしたんだよ……? 何かあったのか?」

「何かっていうか……、そうだな、僕の心境の変化かな。裏と表の社会をうろうろして曖昧な立ち位置にいることに疑問を持ってね。左都たちを守れるように、って」

「……情報屋の助手……」

「今はまだ名前を考えてなくて。そのまま助手って呼んでくれればいいよ」

「わ、わかった」



助手は微笑む。白華は左袖をつかんで、あるはずのないその手をみた。
左都は少し不思議そうに、しかし事の成り行きを知っていて彼らを見つめる。



「ただったらオレは、助手が安心できるように強くならないとな」



覚悟のある凛々しい笑顔で白華はなくなっていない方の手をにぎって拳をつくった。






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その日の真夜中、右都から助手は情報を買った。

その場にいる白華は無い腕の付け根を押さえている。



「調べたよ、白華が狙われている理由」



右都が大人しく読書をし、白華が筋トレをしている最中、ノートパソコンを見つめていた助手がふと、そう言ったのだ。その一言で二人はピシリと動きを止めて険しい表情をした。



「なにしてんだよ、助手……! そんなことしたら、お前まで命を狙われるし、それに、そのことは関係者以外……」

「そうですね。白華と同じ意見です。南区の方が手を引いたんでしょう? その理由、分かってるよね?」



白華はいまにも助手の背を床に叩き付けて殴りそうな勢いであった。冷や汗を流して、殺意がこもっていそうなほど強く睨む。落ち着いた様子をみせるものの、右都だって冷や汗を流していた。



「わかってるよ。でも、そもそも僕には心当たりがあった。白華が大怪我したとき、手術には僕も立ち合ってるんだよ」

「……っ、だからって!!」

「僕は白華のことが知りたかった。知らなきゃならないと思った」

「殺されるぞ」

「僕にはまだ死なないよ。二人を守らなくちゃいけない。それに、情報屋関係にいたら中立の立場で禁忌にいくらだって触れる機会はあるでしょ。こんな、狭い防御壁都市なんていう世界では」

「たしかにそうなのかもしれませんが、助手、あなた……」

「中立という立場は使える。それに僕が、防御壁都市のなかのほとんどの住民が人造人間だって知ったという事実は南区も北区のマフィアも知らない」



助手の余裕を見せた落ち着いた態度に、右都と白華は不安になった。
そして、さらりと助手はどの程度の秘密を知ったのかを口にする。右都は驚きをみせない。右都も知っていたのだろう。そして、これが白華の狙われる理由だった。