フラーウスの未来
 



「……左都?」



静やかな声音のフラーウスが左都の名前を口にした。左都はゆっくりと開けた目をフラーウスに向け、彼の体に怪我がないのかを真っ先に確認した。その後に違和感を感じて右肩を見ると、頑丈に固定されており動くに動かせない。



「フラーウス、大丈夫?」

「それはこっちの台詞だよ。左都は大丈夫なの?」

「右肩が少しおかしいかなー……。あとはどこも。右肩も大したことないよ。あはは」

「そう。ならよかった」



フラーウスのその声を聞いて左都は自分のしたことをゆっくりと思い出していた。

人格の入れ替わりをするのが嫌で嫌で、なんとか堪えていたところ、建物の隙間にキラリと光るものが見えた。よく目を凝らしてみればそれは銃口で、急いでフラーウスの盾になった。盾になることで、フラーウスが動きを止め、彼の心臓が行く先であった場所には届かず左都の肩を貫通しただけにとどまった。



「不甲斐ない……! 僕のせいで、左都……」

「私が勝手にやったんだからフラーウスは気にしないでよ〜っ! ほら、私は平気なんだから! ね?」



左手だけをヒラヒラと動かして左都はフラーウスに元気を取り戻してもらおうと試みたが、フラーウスは俯いて拳をにぎっている。彼の黒髪の隙間から奥歯を噛んでいる様子も伝わった。



「……。勝手だけど、僕は左都を守りたい。って、思うんだ」

「っへ?」

「今回のことがもう二度と起きないように僕が強くなるのはもちろんだけど、これからもずっと左都を守りたい。左都だけじゃない。右都も。怪我をしないように」

「そ、そこまでする必要はないんだよ!? それにフラーウスには学校があるし、医者になりたいんじゃないの? 私たちにかまってる場合じゃ……」

「やめる」

「っ」

「やめるよ。学校も、医者になる夢も」

「そんな」



左都は面をくらった。
フラーウスには冗談を言っている雰囲気もない。
しかしそれが左都に急激な不安を抱かせた。フラーウスの将来を奪ってしまうことに心が不安定になる。肩を負傷し、体力のない左都にとっては人格を交替しない条件はどこにもなく、次に声を発したのは右都だった。



「え……、? なに、これ。どういう状況……、あいたたたっ」

「う、右都!? ちょ、起き上がろうとしないでよ。肩に怪我してるんだよ」

「ああ、そうだったような気がします……」



右都は大人しくベッドに沈んだ。
フラーウスが肩を落として一安心する。しかし右都は的確な質問をフラーウスに投げ掛けて彼に休みを与えなかった。



「左都と何を話してたんですか?」



状況は右都が病室のベッドに寝ており、その傍らにフラーウスがいるというもの。人格の交替には左都の不安や恐怖などの感情が必要となる。この状況でそれを左都に与えたのはフラーウスしかいない。



「……僕が左都と右都を守りたいって。そのために学校と医者になる夢をやめる必要があるって、言ったんだ。怪我をする危険な立場にいるのに、君達は戦闘技術をもたない。だったら僕がその代わりになって、守りたいって思った」

「私たちのために、あなたは自分の将来を諦めるんですか?」

「違う。フラーウスではない別の人に――別の未来を行こうってだけ将来を諦めるとか、奪われたとか、失ったとか、そんなんじゃない。それよりも大切なことができた」

「つくづくフラーウスは甘いですね」

「優しいって言って欲しいね」

「わかった。私は了解しました。ボランティアをあなたにさせるのも後ろ髪引かれますので、情報屋の助手になるのはどうですか?」