南区
 



「左都……!?」



撃たれた。
撃たれた。撃たれた。撃たれた。
左都が撃たれた。

フラーウスは刀を放り出して、倒れる左都の体を抱き留めた。すぐに体を寝させ、傷口を見る。右肩の斜め下を貫通していた。
急いで羽織を脱いで止血をする。
心拍に合わせてどばどばと流血しているわけではないのでフラーウスは大きな動脈がやられたわけではないのだと少しだけ安心をしたが、安堵するにはまだはやい。



「肩甲骨がやられてる……。くそっ。白華、僕の電話帳にある運び屋に電話して、急いで! 南区の闇医者につれてけって!」

「わ、わかった!」



フラーウスが投げた携帯電話を白華が掴み取り、荒い手つきでボタンを使って画面を変化させる。目的の文字が見えるとすぐに耳へそれをあてがった。
左都が撃たれたことにより、ノウは皇帝から指示が出る前にすでに戦闘を止めていた。マフィアが関与する戦闘に一般人の怪我人や死人が出るのは外道だと南区のマフィアでは鉄則なのだ。
ノウは左都が倒れた方の反対側を反射的に見やる。物陰に隠れる人影には見覚えがあった。飯田だ。ノウは舌打ちをする。



「飯田です」

「……っく。いや、このことを考えるのはあとにしましょう。ノウは黄果に連絡して応急措置の準備をしてもらってください。今は一般人の少女を救うことだけを考えましょう」

「はい!」



ノウは白華よりも素早い手つきで携帯電話を耳に当てる。



「……フラーウス」

「! しゃ、喋らないで右都」

「よく私が右都だとわかりましたね」

「喋らないでって!」

「左都を、助けてくださいね……」



右都はすう、と目を閉じた。
フラーウスは奥歯をギリリと噛み締めた。



「皇帝! ネクタイ貸して」

「っはい」



皇帝は急いでネクタイをほどいてフラーウスに手渡す。その間にフラーウスは左都の服を脱がして、素肌にネクタイ当て、流血を防ぐ。ギュッとネクタイを縛った。



「彼女はどうなりますか?」



焦り気味の皇帝の声とは対照的に、フラーウスは冷静さを取り戻していた。



「大きな動脈が切れたわけではないと思います。肺からも随分ずれているし……。ただ骨に穴が空いていて右肩の機能が心配。ここには十分な道具がないから黄果のところについたら彼女に任せましょう」



フラーウスは袖で汗を拭う。
すると近くでタイヤの擦れる音がした。すぐにドアの開ける音と足音が響く。



「車の中に寝かせられる用意はできてるよ! さあ!」



運び屋のベルデだ。トラックであるため、輸送の途中だったのだろう。ノウが確認をしてからトラックの荷台を開け、フラーウスとベルデが協力して左都を荷台へ運び込んだ。



「ネクタイは差し上げます」

「感謝はしませんよ」

「恨んでもらってもかまいません」



皇帝の顔を一度だけ見てからフラーウスは白華と共に左都を寝かせたトラックの荷台に入り込んだ。ベルデは直ぐにトラックを出発点させる。

残ったノウと皇帝はすぐに北区へ向かうことにした。





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黄果の小さな病院について、左都はすぐに手術室へ運ばれた。フラーウスは我が儘を言って黄果の助手として手術室へ入る許可を貰う。
左都の傷口を塞ぎ、病室へ寝かせたときにはすでに白華がベンチで眠っていた。

翌日の午後になると左都は目を覚ました。
それは白華が戦いかたを学びに行ったあとで、黄果はもちろんいない。フラーウスと二人きりだった。