銃声
 



フラーウスは浴衣姿で、いつでも寝られる準備を整えた状態で静かに座っていた。カチカチと時計の秒針のみが響くリビングで、静かに苛立っている。仕舞いには勢いよく立ち上がって部屋の中をグルグル回り始めた。次に起こした行動は全部の部屋をチェックしてまわることだ。ノックをして中にはいり、そこに誰もいないとため息をして出る。それを何度も繰り返したところでフラーウスは羽織を着て日本刀を持ち、外へ出た。

左都と白華の帰りが遅いのがすべての要因だった。補導されている可能性よりも中央区から出たことにより、飯田やノウに襲われていないかという不安がある。フラーウスは急いで西区にある中学校を目指した。
深夜ということもあり、工業地区の西区は昼間より静かに唸っていた。フラーウスは息を切らしながら急ぐ。
嫌な予感というものはよく当たるもので、フラーウスはただそれが当たらないように祈るばかりだった。



「人造人間なんて……!」



そんな声が聞こえて、フラーウスは静かにその場に近寄った。そこには南区マフィアの若きボスの皇帝とノウがいた。拳銃をもつノウによって壁際まで追い詰められているのは左都と白華。左都はときどき頭をかきむしって、冷や汗を流している。人格交替に必死に抗っている。恐怖に負けて人格交替してもおかしくない状況だ。もし右都に入れ替わったらその瞬間から彼女は情報屋だ。敵の前で情報屋になるわけにはいかないと、左都は拳銃よりも自分の頭のなかで起きようとする変化に必死だ。
白華は左都を心配するも外部の人間にやれることはない。せめてノウを撃退できればと思うものの拳銃を向けられているせいで身動きが出来ずにいた。



「……人造人間……?」



フラーウスは白華の状況を見ながら呟いた。
そして確信した表情で刀を腰に構えて姿勢の低いまま走った。ノウの懐に潜り込んで抜刀をする。ノウは服と腹を少し切ったが何とか大事には至らずに避けた。



「あ、あんた、この前はよくも――」

「二人とも大丈夫?!」

「話きけよ」



フラーウスはすぐに左都と白華の元へ行く。二人に怪我がないのを確認した。フラーウスと白華は左都に気を使いつつ急いでその場を離れようとしたが、やはりノウがそれを許さない。



「その少年が死ぬまで帰らせないからね」

「……白華、左都をお願いしてもいいかな」

「……。……わかった」



フラーウスはもう一度刀を鞘にしまい、抜刀の体勢になった。ノウも拳銃を一旦しまい、早撃ちの体勢になる。ノウは皇帝を守るように前に立った。
月が雲に隠れて辺りが暗くなると二人が同時に動く。互いに素早く動いた。ノウの早撃ちは目が追えないほど速い。フラーウスの抜刀はいつ刀を抜いたのかわからないほど速い。互いのその技術は熟練のものだった。よって、互いに回避もままならずノウは二の腕を斬られ、フラーウスは鞘を持った腕を撃たれた。
だらりと血を流すが、フラーウスもノウもそれどころではなく、そのまま戦闘を続行する。フラーウスの斬撃をノウは避けて距離をとって撃つものの、避けられ刀で弾かれてしまう。フラーウスは強力な一閃を放つわけでもなく、ただノウを追った。

戦闘に不向きなノウはすぐに体力切れで動きが鈍くなり、フラーウスにチャンスが何度も何度も訪れた。
皇帝も危機を感じて参戦しようとした瞬間、今まで人格交替の衝動と戦っていた左都が、白華の手を抜けてフラーウスまで急いだ。その行動に誰しもが驚いたが、まるでこの場を制する大きく短い音に合点がいった。
フラーウスの後ろで左都が両手を広げて立ち止まった。その直後に銃声が鳴ったのだ。すぐに赤い花を散らせて膝を崩す左都。



「私は、これくらいしかフラーウスを手伝えないから……」



その言葉だけ残して左都という少女は左都という意識を失った。