ボロボロの白華
 


やがて白華は泳がせていた目をフラーウスにとめた。言い逃れをしようとして口を開き、罪悪感を感じて閉じる。その繰り返しをしたあと、白華は観念したように眉を下げながらフラーウスの正面に座った。



「こ、殺し屋に戦い方を教えてもらってた」

「殺し屋!?」

「……うん、殺し屋」

「よりによって殺し屋……。いや、武器を渡した僕にも責任はあるんだけど、殺し屋……。ていうかまともに正面から殺し合う殺し屋なんていないんじゃない? どっちかっていうと暗殺というか」

「紫音っていう殺し屋は戦い方を教えてくれるけど」

「紫音は……特殊だよ……」



白華の先生が紫音ならば白華がボロボロで帰ってくる意味もフラーウスには理解できる。白華が役に立とうと頑張ってくれることはフラーウスも嬉しい。しかし紫音はスパルタだろう。フラーウスは心配した表情をしたが、考え直す。白華の決意を否定するのは駄目だと。白華は左都や右都、そして自分の役に立とうと努力しているのだ。白華が本当にそれでいいと思うなら、何を言おうと無駄になるだろう。
フラーウスは脱力したように座ると、畳んでいた洗濯物を脇に置いた。



「わかった。白華、頼りにしてるけど無理はしないでね」

「! わ、わかった! オレ頑張るからな!」



ぱあっと白華の表情は明るくなり喜んだ。
そこへ風呂上がりの左都が現れた。タオルで髪を拭きながら首を傾げている。



「お風呂あがったよー。あははは、二人ともなにしてんの?」

「ちょっと話してただけだよ。疲れてるだろうから白華からお風呂入って。僕はまだ洗濯物があるから」

「わかった。ありがとう」

「フラーウスー! 洗濯物てつだうよ!」



白華が部屋を出ると左都はフラーウスの手伝いを始めた。フラーウスはそこでつい先程できた疑問について左都に聞く。



「左都、さっき白華がボロボロになってたのは気付いた?」

「あっははは。気が付かない人はいないっしょー!」

「もしかしてどうして白華がボロボロなのか知ってる?」

「あれ、フラーウスは知らない?」

「ついさっき知った」

「私は知ってるよー。だって右都に先生を捜してって言ったの白華だし。ふふふ、右都のお客さんになってたんだよ、白華! だから右都経由で私も知ってるよ!」

「右都の知ってるのとは左都も知ってるってこと?」

「人格が違うから記憶も自然と違うよー。私の意識と記憶は右都と共有してないもん。日記に書いてるんだよ。右都がたまに教えてくれるの。私には知っておいて欲しいこと」

「へえ、そうなんだ……」



あくまで左都は一般人で右都は情報屋。いくら二重人格でも情報屋の右都が左都に情報を教えるわけがない。左都に流すのは知っておいて欲しいことのみ。



「洗濯物終わったーあああ、ああああああああああああ!」

「っ!? ど、どうしたの左都!?」

「学校に宿題忘れてきた! 提出日は明日なんだよ! まだ地下鉄があったと思うから私、ちょっと行ってくる」

「ちょっと左都! 夜に一人は危ないから!」

「ええ? だって……」



左都はムッと口を尖らせた。フラーウスは自分が着いていこうとして立ち上がるが、それを制止する声があがった。白華だった。左都と同様に髪を拭きながら現れる。片腕しかないため上手く拭けていないのだが。



「風呂はやいね」

「時計みろよ。15分経ってるぞ」

「え、あ。本当だ」

「ほら、次フラーウスの番! 左都にはオレがついてくから!」



役に立ちたいと張り切る白華に心配をしながらも彼に任せることにした。行って帰ってくるだけであるため、時間はかからないはずだとフラーウスは思う。



「ここ何日も飯田とかノウが現れてない。なんで僕たちを襲ったのか理由はまだハッキリしてないし諦めたとは思えないから気を付けてね」