立て続けの事情
 


フラーウスは話を全部聞いてから静かに目を伏せた。取り繕う左都の言葉は耳に入らず、やがて口を開ける。



「……左都」

「っえ、あ、なに?」



左都が予想していたものとフラーウスの実際に発する声が違い、左都は驚いた。フラーウスが真剣な眼差しをしていて緊張が身体中を走る。



「困ったことやしてほしいことがあったらなんでも僕に言って。なんでも。なんでもいいから」

「あははは……、急にどうしたの?」

「一人でさみしかったんでしょ?」

「……へ」

「僕だって常に両親が家にいないような家庭だったけど、左都は、あんまりにも……」

「なに言ってんの! ほら、大丈夫だって! ね! 私には右都がいてくれるから平気――」

「本当に? 本来だったら僕も白華もここにはいないんだよ。これから先もずっと、ずっと」

「……」



左都は両手を強く握った。そして歯を食い縛る。左都がうつむいているせいでその様子はわからないはずなのにフラーウスはその様子が見える様だった。
テーブルの下から左都の手を取り出してフラーウスはその手を包んだ。左都が驚く表情をするが、フラーウスは気にしていない。



「同情みたいなこと言ってごめんね。でも僕は左都の力になりたい」



左都は困ったように笑った。困ったように、しかし嬉しそうに。





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その数週間後、フラーウスはその日も学校を休み、午前中に用事を済ませた。両親が殺された事件はもう落ち着きをみせている。それを少し寂しく思いながらフラーウスは左都を迎えに中学校へ行く。
ここ最近は白華が家にいない。リハビリももう終わり、一人で出歩いても中央区の中なら大丈夫なのだが、それでもフラーウスは心配していた。

夕方の橙色をした陽射しを受けて今晩の晩ごはんは何にしようかと考えていた。中学校へ近付くにつれて中学生の姿をよく見るようになった。校門を目にすると、すぐ近くに左都を見つけた。左都のすぐ近くには彼女の友人らしき少女の姿も見える。



「あ、迎えが来た!」

「うっそ、あの黒髪の綺麗な人!? 年上だよね。いいなあ」

「わははははは! 早とちりだよ、そんなんじゃないって! じゃあね。一緒に待っていてくれてありがとうー」

「いいよいいよ。またねー」



左都とその友人は手を振り合い別れる。二人の会話が聞こえていたフラーウスは苦笑しながら肩を竦めていた。



「聞こえてたでしょ、フラーウス。ごめんね」

「気にしてないから大丈夫だよ」



二人は地下鉄を目指して歩く。その道中、ふと左都は思い出してポケットから四つに折り畳まれた紙を取り出してフラーウスに渡した。


「? なに?」

「ふふふ、ラブレターだよ!」

「質素なラブレターだね。もうちょっと飾り気がほしいな」

「愛がこもってればどれも一緒だよ!」

「そうかなあ……」



いひひ、と笑いながら左都が差し出す紙をフラーウスは受け取った。紙を広げて書かれている文字を読む。



「なんだった?」

「右都から仕事の手伝いをして欲しいって」

「この前もそうだったよね。大丈夫?」

「ラブレターじゃなかったのがショックで大丈夫じゃないかな」

「あっはははははは! 元気出してー!」



大笑いをしながら左都はフラーウスの背中をバシバシ叩いた。

そしてその晩、左都とフラーウスが晩ごはんを食べ終わったあとに白華が帰ってきた。風呂で歌う左都の歌声が白華を迎える。洗濯物を畳んでいたフラーウスが白華に「おかえり」と言ったあとに驚いた。
白華の着ていた服がボロボロに汚れていたのだ。服だけではなく、白華は軽傷を負っている。フラーウスは目を丸くして立ち上がった。



「白華!? どうしたの、それ……!」

「……いや、これは……」