左都と右都
 



「改めましてこんばんは。はじめまして。僕の名前はフラーウス……」

「あはははは! なぁーにかたくなってんの、普通でいいよ普通で!」

「でも左都、挨拶はしとかないとって」

「お互いに知ってるんだからべつにそんなのはいらないでしょー」



右都が眠ったのを確認してフラーウスが彼女を起こすと、それはやはり左都となっていた。眠ったら人格が戻るということなのだろうか。左都は元気よく起き上がり、フラーウスから事情をきくと素直に驚いた様子をみせた。



「それにしてもよくわかったねー。ま、でも白華のほうが少し早かったけどね。いひひっ」

「白華? 白華も知ってるの?」

「おんなじ学校に通ってるんだよ? 左都っていう人とまったく同じ容姿をした右都を変に思ったんだろうね。ふふふ。さすがに二重人格ってとこまでは飛躍しなかったけどさー?」

「そうなんだ……」

「でも私が二重人格になった原因を白華は知らない。誰にも言わないでね」



フラーウスがごくりと覚悟を決めたところで左都はへたくそなりに説明をはじめた。



「二重人格になる理由って大抵は心に大きなダメージを抱えてるのが大半だよね。私もそれなの。まだ家族三人で、ここで暮らしてた時にね。私のお母さんってもともと病弱なひとで治療代が半端なかったわけだよ。お父さんはお母さんのためにって仕事を一生懸命やった。早朝に出て深夜に帰ってくるのが毎日。休みなんてないからストレスがどんどんたまって……」





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私がまだ小学校に入りたてで、まだまだ甘えたい時期。お母さんはその日も病院に行って、晩御飯はインスタントだった。家にだれもいないというのは当時の私にとって耐えられないものだった。不安と恐怖ばかりが嫌というほど心に満ちていた。

その日は寂しくて寂しくて夜遅くまでお父さんを待っていた。ここ何週間もお父さんに会ってなくて。きっと疲れてるだろうからってあたたかいココアを作って待ってたの。
でも帰ってきたお父さんはストレスで窶れていて私とココアを見た瞬間に激怒した。もともとお金のない家だったからか、まずは節約をしていないせいで叱ったようなものだった。けれどどんどんエスカレートしていって殴ったの、私を。



「おとうさん止めて、おとうさん、おとうさん……」



その時私は殴られる痛みよりも裏切られたようや感覚で、お父さんが怖くなった。それから毎晩毎晩寝てる私を殴って虐待を繰り返した。夜というのは不安と恐怖しかなくて、胸が張り裂けそうだった。
それがしばらく続いたある日、夜になるとプツンって寝るようになったの。お父さんに殴られないで、ゆっくり寝られた。殴られなかったのかと思ったけど、そうじゃないんだよね。アザや殴られたあとは増えてるんだもん。はじめの何年かは不思議だった。

とある朝、目を冷ますと枕の隣に一冊の厚い日記が置いてあったの。お父さんがこんなことするわけがないし、いつの間にか家にお母さんが来たのかなと思ったんだけどそうじゃないんだよね。
一ページ目に「はじめまして。私は右都です。どうやらあなたはに二重人格のようです」って書いてあったの。はじめは意味がわからなくて図書館で調べたときにはゾッとした。

右都は自分で自分の存在を知って、しかも私を認めた。こういうの、珍しいんじゃないかな。

右都の存在を知ったお父さんは気味悪がって出ていったの。これが数ヵ月前の話だよ。お母さんは病気が酷くて入院だし、お金には本当に困ってた。そこで右都が情報屋をはじめたの。

右都と私は日記を通して会話をしていて、お互いのことはちゃんと把握してるよ。だから昼間に私から右都に交代しても右都が私を演じてくれる。いつも重たいほうを右都に押し付けちゃって申し訳ないと思うけどね……。