占拠
それは静かに起きた。
「おっかしいねー」
「うん。どうしたんだろうね」
サブラージと左都が教室の時計を見ながらそう呟いた。
普段ならすでに教師が教室に居て、STを始めている頃だ。それなのに、教室には教師がまだ現れない。教室にそろったクラスメイトも、その事についてボソボソと話をしていた。
『全校生徒の皆さん、静かに聞いてください』
ブツ、という音が鳴った直後に校長の少し老いた声が、放送をつたって全校生徒の耳に届いた。 サブラージのクラスは、そこでピタリと私語が止まった。席に戻って話をきく体勢をとるほど模範生ばかりがいるわけではないが不良がいない良いクラスだ。
廊下から他のクラスの委員長が名指しで誰かを注意する声が聞こえた。それを知ることなく、放送は続いた。
『焦らないで、聞いてください。いま、この校舎は、占拠されました』
冗談か?とクラス内でザワザワと私語が再び響く。
左都は「はあ?」と口を開けたまま、音源を見つめていた。サブラージは廊下に出て、窓から外を見渡す。とくに、外の様子に変化はない。
「?」
ふと、何か悲鳴のようなものが聞こえた気がして、サブラージは辺りを見渡した。だが、サブラージがいる二階にはなんの変化はなく、気のせいかと思った。
「どーしたの、サブラージ?」
「ん…、なんか悲鳴みたいなの聞こえなかった?」
「悲鳴?」
サブラージのもとへあらわれた左都は腕を組んで考える素振りをするが、首を横に振った。サブラージは気のせい、ということにして教室に戻ろうとしたときに突然数十人の悲鳴が同時に学校中に響いた。
「え、なに!?」
「きゃあ!」
「なんだよ、突然!!」
サブラージが戻った教室では、悲鳴を聞いたクラスメイトが混乱していた。その声は他の教室からも立て続けに聞こえる。 サブラージに嫌な予感が走った。
校長が先ほど放送で言っていた言葉が、すっと頭に浮かび上がる。
「まさか、本当に……っ」
また悲鳴が聞こえた。 その悲鳴に混ざって男が怒鳴る声も聞こえる。サブラージはすぐに学生鞄から、他の人に見えないよう、短剣を取り出して袖や腰などに隠し入れる。 ただ事ではない、そう思って一部のクラスメイトが教室を出たが、ほとんどのひとは足がすくんでいて動けない様子であった。
「サブラージ、」
きっと胸の中では面白がっている左都が、サブラージを呼んだ。
「校長が言ってたこと、本当なのかな」
「たぶん。でも訓練通りに動くように指示がないのは、きっと職員も支配されているからだと思う」
左都は下を向いていたが、わずかに口を歪ませたのをサブラージは見逃さなかった。楽しそうだな、と直面した恐怖にサブラージと左都は楽観的になっていた。教室に残ったのはサブラージたちを含めて、半分と少し。ちなみにクラスの人数は38人だ。
悲鳴が近付いた。 続いて複数の足音。
「静かにしろよォ!!ガキ共!!」
サブラージがいる教室に大きな音をたてて侵入したのは、サングラスをした男だった。片手に握った銃がギラリと光る。
窓際にいた女子の悲鳴と男子の声が混ざる。左都は声をあげたりはしなかったが驚いていて、サブラージはいっきに警戒心を高めた。
続いて、男は「死にたくなかったら言うことを聞け」と荒々しい声を張り上げて教室を一瞬で恐怖に包み込んだ。
対抗できる力を持たない中学生たちは銃に脅え、素直に言うことを聞いて、男が言った「静かに体育館へ行け」という指示に従った。
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