▼ 混沌の魔法少女 ナナリーは玉乃が落としたネックレスを指差しながら目を丸くしていた。サレンも「おやおや」と驚いているのかそうでないのかよくわからない声をあげる。 「そっ、そのネックレス、どうしたのっ?」 「拾ったんだけど……、これ、ナナリーの? 返すよ」 玉乃は落としたネックレスを拾い、汚れを払った。しかしナナリーは首を横に振る。そのやり取りを見ていた初は懐から似たネックレスをとりだし、サブラージもネックレスのある位置に手を置いた。 「これ……、ただのネックレスじゃないの」 「まさか魔導具? 僕の知ってる魔導具とは少し違うみたいだけど」 「私たちの世界では魔術具っていうの。私とサレンが主になって開発した……魔法少女変身道具」 「……なにそれ……」 玉乃の目がじと目になる。ネックレスを両手で握る初も、サブラージもナナリーに真剣な眼差しを向けた。初がそのネックレスを持っていることを知っている雪之丞は、彼女を安心させようと頭の上に手を置いてみた。 「そこには強力な魔術が秘められていて、持ち主が唱えれば魔法少女に変身できるの!」 「……はあ」 「かわいい魔法少女に変身して、ときどきサービスシーンを組み込みながら可憐に戦うのよ! あー、胸が高鳴る! しかも変身するのがロリってところがポイントなんだよね。本当はリャク様に変身してほしかったのだけど……、君もショタだから許容範囲内かな!」 「これ……、返すよ」 「始めに直に触れたロリショタを所有者として認識して、目的を達成するまで離すことはできないんだな。これが」 得意気に話すナナリーの言葉を聞いて玉乃はサッと血の気を引かせた。同居人の不幸の塊である女性とテレビでみたことのある魔法少女。女の子がフリフリのレースとリボンが使用された服に変身して悪の組織と戦うアニメ。その知識が玉乃の脳内に再生されて、吐き気がした。 「ちょーっとオニーサン、このエメラルドのネックレスあげるよ! いやいや、遠慮はしないで!」 「遠慮しねーよ、いらねぇよ!! つーか目的を達成するまで離すことはできねえんだろ!?」 「なんとかしてよルベル!! いや、いやあ! ま、魔法少女なんて、バカじゃないの! 本当にバカじゃないの!」 「俺に言うなよ! ぐ、服を引っ張るんじゃねえクソガキ……!」 「わかった、わかった。一生のお願い! ねえ、お願いだからネックレスを貰ってぇー!!」 急にルベルとサブラージが大声をあげて取っ組み合いを始めた。サブラージが握るのは拾ったあのネックレス。大男と小さな少女の取っ組み合いは以外にも互角で決着はつかない。 その脇で静かに初と雪之丞が玉乃のもつネックレスと色違いのものを手に話をしている。 それらの様子を見てナナリーは至極、幸せそうに微笑んでいるのだった。 「……趣味?」 「ええ、そうだよ!」 ロルフは眠そうにナナリーに聞くと、ナナリーに頷いた。「……で」と金神 がナナリーに問う。 「その目的とはなんなのだ?」 金神の声にサブラージとルベルの取っ組み合いは一時停戦をし、雪之丞も口を閉ざした。 「そういえば何も考えずにナナリー首謀で開発していましたねぇ。なにか考えはあるのですか、ナナリー?」 「あちゃー、何も考えてなかったや。リャク様のことは考えてたんだけど。ま、ショタだからしょうがない」 「貴様はオレに叱られたいのか?」 「では今、考えてしまいましょう!」 「そうだね。うーん……」 「ならばこうしよう」 白衣の三人組が話を進めていく。そのなかでリャクが名案を思い付いたようだ。彼は腕を組んだ状態のまま、ネックレスをもつ三人を目の前に集めた。ナナリーがリャクを含めたロリショタ四人を見て頬を染めた事などには誰も触れない。 初の後ろには雪之丞が。サブラージは何をされるのかわからない疑心から、ネックレスを持っていない手で短剣の柄に触れる。玉乃はやさぐれた目付きをしたまま、ため息を吐き出した。 「目的はここに呼び出された全員の力を記録することだ」 「……なにそれ。どういうこと?」 「黙れ回収屋。まだ話は終わっていない」 「ぐっ」 「つまり、戦闘データだ。異能者以外の力などなかなかお目にかかれんのでな。その魔術具にはきちんとROM機能があるはずだ。それで全員と戦え。その魔術具にはオレを含めた多数の魔術師の魔力と術式が幾重にも存在する。力は十二分に備わっているはずだ」 「実験しろってこと? 私たちが実験台になって、戦闘データの採取をしろって」 「つまりそういうことだ」 「自分でやればいいじゃない」 「いいや。貴様らの最初の回収対象は俺たちだ。それにその魔術具の開発にはオレも携わっている。……ナナリーがここまでくだらん開発をしているとは思わなかったが。これの記録は完璧だ。オレがするより遥かに楽であるしな。それにその道具の力量をはかりたい」 「嫌だ、って言ったら?」 「無理矢理させる」 「嫌だよ。……それでも」 サブラージはネックレスを地面に叩きつけようとしたが、手のひらにくっついてしまっていた。叩きつけられずに顔を歪める。 サブラージの袖をくいくい、と初が引っ張った。そして雪之丞が通訳する。 「私の予知にはこの先の未来が見えています。もとの世界に戻りたいのでしたら、素直に進む方が、傀儡にされるより格段に早く事が済みますよ」 「それ、本当?」 確認のために聞いたのは玉乃だ。玉乃は一刻も早く帰りたい一心なのだ。 「はい」 雪之丞が言い、初が頷く。 初の未来予知は百発百中。それを知らずとも自信に溢れる初の表情をみると、すとん、とそれが事実なのだと納得してしまう。 初はもとより、サブラージと玉乃は覚悟を決めた顔つきに変化する。すべては、もといた世界に帰るために。 その意思を汲み取り、リャクは頷いた。 「なにも殺し合いをするわけではない。ルールを決める。サレンとナナリーの二人と戦え」 「えっ、私ですか?」 「おやおやぁ」 「ナナリー、サレンの二人と誰かが握手をすれば貴様らの勝ち。いつまでもできないようでは負けだ」 リャクは白衣を翻してナナリーとサレンの後ろへいく。 「リャク……さん、は、なにもしないの?」 「なにもしない」 「あんた、偉そうだね」 「偉いからな」 リャクは玉乃とサブラージの言葉をはね除ける。 三人は改めて魔法少女という残念極まりない現実と絶望を一生懸命受け入れる。そして、戦う覚悟を今一度、決めた。 2014/03/01 15:40 |
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