SSS


ブルネー島の白い砂浜を己とソラの血が真っ赤に染めていた。
リャク・ウィリディアスを前にして、俺もソラも歯が立たたなかった。……それもそうだ。相手は天才の魔術師だ。
――だが、どれだけ実力の差があろうとも、俺たちはあの人を倒さなければならない。まるで自分以外のすべては研究材料のモルモットとしか思っていないその冷ややかな視線が冷たく降り注ぐ。


「ふん。この程度か。つい数秒前まで偉そうにオレに説教まがいなことをしたではないか。オリジナルの呪いを解けと。道徳を踏み外したオレに仕置きをするんだろう? やってみろ、良聴能力。動かなければ死ぬぞ」


リャクはソラの複製(クローン)をつくって呪いを調べ上げ、死属性について研究しようとしていた。ソラが魔女を葬ったせいで死属性への手がかりがソラだけになってしまったためだ。クローンたちに呪いは複製されず、使えない人形と化したクローンは生ごみのように破棄された。リャクがミソラ・レランスに手を出すのは時間の問題だった。リャクの手にソラがわたってしまえば、ソラはもう二度と息ができなくなる。こうして、ソラやシング、ミルミ、ジン、レイカと逃げていたのに、このブルネー島に到着して追いつめられてしまった。


「実力の差は感じただろう。貴様は死ぬ。生きて返さん」


リャクは戦闘を開始してから一歩も動いてなどいなかった。呪文のない魔術で、俺たちがただ弄ばれただけだった。


「失せろ」


次の瞬間、俺は死ぬはずだった。


「なにボーッとしてんだ馬鹿野郎!!」


怒鳴り声がすぐ近くでして、俺は砂浜に蹴り飛ばされた。直後に俺に降りかかる暖かい液体……。


「……あ……あァ」


ソラが血を噴いている。
空間という空間から槍が飛び出し、ソラを何本ものそれが貫いていた。真っ赤なソラの血が俺を濡らしていく。


「ソラ……? ウソだろ? な、なあ……なあ!!」


ソラは何も答えてはくれなかった。すがり付くように、貪るようにソラに駆け寄る。もともと生気はないものの暖かさのあったソラはどんどん冷えていく一方だった。


「身代わりになったか。まあいい。オリジナルが死んでもまだ瞬間移動能力がいる」


冷徹な声が、俺を怒りで熱くした。許さない。
ソラを殺した、この魔術師を! 狂研究者を!!

砂浜に落ちたソラがつい先ほどまで握っていた拳銃を手に取る。どこか遠くをみていて、すでに俺なんか視界にとどめていない白衣の幼い少年を模った狂研究者の心臓に照準を合わせた。死ね! 殺してやる!!
この耳に聞こえるお前の心臓の音を、今、止めてやる。

殺気なんて隠さない。引き金をおもいっきり引いた。

     

2014/01/12 22:52



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