▼ 午前0時過ぎ 「話せよ犬!」 「……犬じゃない」 無理やり高蔵寺の家に連れてこられたせいでイライラしているダンの声が台所に入ったのを確認すると高蔵寺は手を叩いた。 「じゃあ始めますわよ、クリスマスパーティー!」 「……は?」 テーブルに並べられたご馳走を目の前にしてダンは首を傾げた。 九条、高蔵寺、赤神、高橋、ロルフ、ダンの六人は12月24日に高蔵寺宅に集まって夕食を過ごすことになった。つい先ほど。 「クリスマスってキリストが生まれたお祝いなんでしょ? あたしたち、そういうのに背いてるんじゃないの?」 「……だから俺は、嫌って、言った……」 「? じゃあ教会に所属しつつ半吸血鬼な高橋はどうなるんだ?」 「高橋は特例だよ、九条」 「そんなこと……言うなら、錬金術師だって信仰、捨ててる」 「高蔵寺の家は神教だし、俺は仏教だぞ。まあ、この通り吸血鬼になったが」 ごちゃごちゃと文句を言う人外たちを高蔵寺は睨み付けてフン、とそっぽを向いた。 「細かいことは気にしないでくださいな。ここは都合の良い日本ですのよ。それよりもフランス、ドイツ、イギリスのクリスマスの過ごし方を伺いたいですわ」 席につきながら高蔵寺は座る。席には高橋とダンがつき、ロルフが狼と周りをうろうろした。「ただ飯だからあまり文句を言わず付き合うが」と言いながらダンはフォークとナイフを取る。 「俺は無神論者だ。キリストを祝ったことがない」 「ちょっと文句があります」 「うるさい信者」 「まだ何も言ってないじゃないですか」 ダンは切り取られたチキンやサラダを自分の分の皿に乗せた。高橋はケーキを切り分けつつ頬を膨らます。ソファの上で寛ぐ二人の吸血鬼などお構い無く、二匹の狼と一緒にロルフは高蔵寺へ集りだした。 「Deutschland essen Shutoren.……ドイツはシュトレン、食べる。少しずつ」 「シュトレン? 私、知りませんわ」 「砕いて言うと、ドライフルーツとかナッツが練り込んであるケーキみたいなものですよ」 高蔵寺が苦痛に思いながらも購入したチキン三羽をロルフと狼に与える。高橋がシュトレンの説明を高蔵寺にしているなか、ロルフは狼と丸裸になった鶏をムシャムシャと食べ始め、ダンは苦い顔をする。 「俺はあまり参加しないが、イギリスだとクリスマスカードを交換する。日本で言う年賀状だな。それを暖炉の上に飾ったりする」 「へー。あたしたちでいうなら囲炉裏の周りに年賀状を飾るってこと? 危ないじゃん」 「こたつにしとけ馬鹿」 ダンに馬鹿にされて赤神は「いつかその血、吸ってやる……」と目を真っ赤にした。赤神を馬鹿にしたダンは食事を再開。 「フランスはクリスマスのことをノエルって言うんです。パリの街は綺麗に飾られるんですよ。とても美しいので一度は目にしないと損をしますよ! 人生で一度は見ないと!」 クリスマス事情を食事の席とは別の場所で聞いていた九条は眼鏡を吹いていて興味などなさげだった。しかし彼の頭のなかはクリスマスのことを考えていたのだ。クリスマス料理の味を思い出しながら、ふと隣の赤神を見てみる。自分の師匠のような存在の赤神はクリスマスというものがあまり身に染みていないようで、眉間にシワをよせながらうなっていた。 2013/12/25 17:37 |
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