春は隣に

 

「初っ!」



まだ日も明けない早朝なのにバタバタと縁側を走る音が響いて初はゆっくり目を覚ました。目を擦りながらふらふらと布団から出て襖を開ける。ひゅう、と冬の冷たい風が初の横を通り過ぎて寝室を掛けた。
すぐに初と外は雪之丞の大きな体に遮られて冷たい風は初の部屋に入るのを止めた。



「昨日、初のお母さんが言ってたクリスマスプレゼント、貰ったよ!」



こんな早朝に雪之丞はおおはしゃぎしていた。手には手編みのマフラーが握られている。
初は先月、母とクリスマスの話をしていた。話すといっても、初は紙とペンを使って、だが。そのなかで妖怪のサトリである雪之丞にはクリスマスプレゼントがあるのか? という話題になった。「そうね、クリスマスプレゼントは人間の子供だけだから……」と母は顔をそらし、続けて「初がサンタさんになったらどうかしら? なにか雪之丞くんにプレゼントしてあげるのよ」と言った。そのため、初は雪之丞に勉強中だと偽って少しずつマフラーを編んでいたのだ。

雪之丞がこんなにも喜んでくれるとは思わなかった。初は雪之丞の笑顔につられて幸せそうに笑った。



「あれ? 初の枕元になにかあるよ?
え? あ、本当ですね……」



初は首をかしげながら枕元に置いてある包みを手に取った。雪之丞に催促をされて開けてみる。これがクリスマスプレゼントだと気付かないほど初は鈍感ではないが、しかしクリスマスプレゼントを貰う意味が分からなかった。今年は両親に反抗して雪之丞を守ったり、一言も告げず雪之丞と町へ出掛けたり、山を掛けたり、言うことを聞かなかった一年だったのに。



「わー! 初、初、俺と色違いのマフラーだ!」



雪之丞の喜ぶ声を背景に初は驚いて暖かいマフラーを見た。いい子にしていなかったからサンタは来なかったが、母が雪之丞と色違いのマフラーをくれた! じわじわと暖かいものが込み上げて、初は笑った。早朝から雪之丞と笑いあって、笑い疲れて二人で寝た。互いにマフラーを大事に抱えながら、雪之丞は初も一緒に抱きしめながら布団のなかでねむった。
翌朝、また二人は笑顔になるところを初は思い浮かべながらゆっくりと眠りに落ちた。

   

2013/12/25 07:51



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