魔法少女


圧倒的な力の差だった。
相手の齢は自分と大差がないように見えるのにどうしてここまで力の差があるのだろうか。相手は戦闘を初めてから一歩たりとも動いてはいない。一歩たりとも。ずっと腕を組んだまま、その場所で立っているのだ。



「初!」



雪之丞の声で初は飛ばされた自身の身体を起こした。全身が痛い。今すぐにでも初を助けようと戦闘に乱入せんとする雪之丞をなんとか抑えて、初は魔法を敵の少年に飛ばした。しかし少年は恐ろしく美しい目を初の方に向けるだけだった。それだけで初の魔法は消え、代わりに少年から炎が伸びてくる。死んでしまう。そうおもった。

魔法少女に変身できる魔法の手鏡を拾ってからはや数週間がたっていた。その間にすでに2回も初は戦闘をしていた。初も、雪之丞も驚いていたことだが、今ではその現実を受け止めている。初はすでにこの最悪な力の差を予知していたが、どうしても避けられない未来だった。雪之丞が堪えられないと、サトリとして初の友人として戦闘に参加しようとした瞬間、遠くから銃声が響き、敵の少年を攻撃した。少年は銃弾を氷だけで防いでしまうと銃弾の鳴った方を見た。そちらには初と同じくコスプレちっくな格好をした金髪の少女が一丁の拳銃を両手で構えて立っていた。少年が金髪の少女に気をとられている隙に、今度は刀を持った銀髪の少年が敵の少年の間合いに入って一閃を加える。しかし敵の少年は粒子になるように姿を消して別の場所に姿を現した。回避されて銀髪の少年は舌打ちをする。
しかし、連撃して今度は髪の短い少女が短剣を両手に少年を横に斬る。しかし、やはり敵の少年と髪の短い少女との間には盾になるようなものがあった。

初は混乱した。同じようにコスプレちっくな魔法少女の格好をした人が三人も目の前に現れたのだった。



「うわあ、こんな痛々しい格好をしてるのって僕と純だけじゃなかったんだ」

「……し、漆!」

「痛々しいってあんたねえ、それ自分のこと言ってるの分かってる?」



銀髪の少年は同じく現れた短髪の少年とさっそく口喧嘩を始めた。その仲介に金髪の少女が割ってはいる。初は困って雪之丞に助けを求めた。これは一体どういう状況なのだろうか、と。
敵の少年は黙ってこちらを眺めているだけだ。



「それよりあなた大丈夫? 怪我が酷い……」



短髪の少女は敵に気をつけながら初に近付く。初は頷いた。



「玉乃、この子の怪我治せる?」

『治せるよ』



短髪の少女に呼応して別の声がした。姿は見えないのに別の少年の声がする。この状況に初はさらに混乱した。声がした途端に初の足下に小さな魔方陣ができて初の怪我がみるみる治っていく。



「わあ、便利」

「あ、あの、私は純っていいます。銀髪のほうは漆です。私たち、仲間ですよね……?」

「さあね。そっちの感じが悪い子はどうだか」



ふん、と短髪の少女はそっぽを向く。純は申し訳なく項垂れた。



「私はユアン。姿見えないけど、もう一人もいるよ。そいつは玉乃。よろしくね」



ユアンは初と純に手を伸ばす。純は応じたが、初はその先の未来を予知していた。すぐに防御壁を展開する。握手を交わす暇などない。喋られない初に代わっていままで口を開かないよう、癖を露見させないようつとめていた雪之丞がユアンに謝る。



『……あなたは』



玉乃の驚いた声が雪之丞に向けられたが、すぐに全員は戦闘に引き戻された。



「黙って見ていれば……。敵を前に雑談など随分と余裕だな。死んでも知らんぞ三流ども」



敵の少年の背後でずっと静かにしていた白衣の女性が懐から札を取り出した。攻撃意識を感じていなかった。ユアンは武器を構え直す。それにならって初以外の全員も手に持つそれを静かに構えた。



「相手にしてやる気にもならんな。人が開発した魔術道具を我が物顔で使いやがって。ナナリー、お前に任せる」

「わかりました。しかし封術師は補助向きの異能ですよ。無茶ぶりではありませんか?」

「そう思うなら死んでも構わんぞ。オレの研究に支障は出ない」

「……ちょっと、ショックですよ……。そんなこと言うとあちらのロリショタたちと駆け落ちしますよ、私!」

「清々する」

「……」

「あとは任せた。やつらの手にするものが何なのか教えてやるついでに懲らしめろ」

「酷いです。殺人の許可は貰えないんですね……」



ナナリーは少年と雑談をしながらも宙に札を浮かせるという摩訶不思議なことを成していた。
そして、詠唱。



「指定。略式、封術八番方式を展開。五から二十五を抽出。一から四を詠唱開始。魔術、登録不可の属性。その属性から生み出された一時的な魔術発生道具を封印。その魔力を元の主に還し、彼らの術を封じよ」



封術師にとって致命的な長い封術の詠唱。それが完了するとナナリーの撒いた札は燃え尽きた。そしてその場にいる全員の魔装が全て溶けた。武器は持参のユアンを覗いて全員の武器とコスプレちっくな格好は町でよく見るようななんでもない格好に戻った。そして姿が見えなかった玉乃も姿を表す。ユアンを除き、戦闘不可となった彼らの前に立ち塞がるのは雪之丞だ。



「初に……この子たちに危害を加えたら殺す」



そう断言する。雪之丞の隣にはユアンが武器を構えていた。魔装は解かれたのに武器を未だに持つユアンに初たちは驚いていた。



「待って。リャク様は過激な手段をされたけど、交渉の余地があるあなたたちを私は攻撃しません。武器を下ろして、殺気を抑えてください。私の話を聞いて」

「誰が敵の言うとおりにするもんか」

「……」

「……初がそう言うなら……」



ユアンはナナリーを否定した。しかし一方で初は雪之丞の手を引き、自分の意思を伝える。雪之丞は初に従うと頷いて殺気を抑えた。ユアンは舌打ちを残す。



「玉乃、サポート頼める?」

「ユアンに僕の幸運を分けてる余裕なんてないんだけど……。ユアンを守る白魔術くらいなら少しだけ披露してあげるよ」



ユアンは戦闘を続行することにした。まだユアン以外は玉乃の正体が天使であることを知らない。玉乃は地面に正確な円を描いてポケットから銀色に光る指輪を取り出した。それを円の中央に落とす。落とされたそれはカランと音をたてて勝手に幾何学模様を描き出した。同時にユアンはナナリーへ直進する。

   

2013/08/29 21:12



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