魔法少女

どんなものにだって表と裏がある。
それが社会であってもそうだ。表社会と裏社会。……私と私の兄は裏社会に生きていた。マフィアやらヤクザ、殺し屋だとか運び屋だとかがあるように、私とお兄ちゃんは奪還屋をしている。夜の街を暗躍する私たち兄妹に、ある日、唐突に邪魔が入った。見知らぬ裏組織だった。いや、この街では見たことがなかった。
兄のルベルも、私、ユアンも妹のサブラージも、邪魔がはいって以来収入が激減したせいで生活が困難になった。



「ああ、なんなのあいつら」



私は学校帰りの道に落ちていた石ころを蹴った。小さな八つ当たりのようなものだった。やっぱり中学校を卒業したら就職をしたほうがいいだろうか。もちろん裏側の。兄には奪還屋を継続してもらって、私は人手不足だと聞いた運び屋にでも……。



「痛いっ」



前方でスーツをきた女性が頭をさすっていた。あ、人にぶつけてしまった。すぐちかくまで駆け足で寄っていったごめんなさいと謝る。すると女性と一緒にいた私と同じ年代の男の子が「いいって、いいって」と手を振った。透き通るような金髪と青色の瞳がとてもきれいで、地上に舞い降りた天使かと思ってしまうほど美少年だったが、生意気な顔つきが純粋な天使というイメージを拒んでいる。



「この人――沙夜っていうんだけど――は運がものすごく悪いからそんなに気にしなくてもいいよ。こんなの日常茶飯事だから」

「玉乃くん、いきなりそれはないよ」

「ごめん。まあでも君が気にすることではないよ」



この天使っぽい人は玉乃というのか。私はなんとなくその名を頭に刻み付けた。

その日の夜。
私は兄のルベルとともに夜の街に出た。サブラージにはいつも留守を任せている。今晩の仕事の依頼は町中を探し回らなければならない代物を奪還しなければならなくて、私とルベルは別行動だった。
――そんなとき、私の前に立ちふさがったのはあの裏組織のメンバーだとか名乗るヘッドフォン野郎だった。その後ろには猫耳フードの被った金髪の少女。まあ、中学生の私より明らかに年上だから少女というのはなにか違うような気がするが、まあそんなことはいい。あいつらは漫画のような不思議な力を使うのだ。

普通に戦ったところで私に勝ち目などない。

逃げよう。そう思って急いで回れ右をしたのに、目の前にはあの猫耳フードの人がいた。なになに、どういうこと? テレポートする力でもあるってわけ!?
厄介なものに捕まった。おそらく彼らは私の仕事の足止めをしに現れたんだろう。と、いうことはお兄ちゃんのほうも足止めをくらっているはずだ。
奥歯を噛んで、私は両手に短剣を握った。
そして猫耳フードへ踏み出した。



「ちょっと待った」



しかしそこに静止の声がかかる、ヘッドフォン野郎だ。猫耳フードも戦闘態勢をとっていたため驚いていた。ヘッドフォン野郎はその手に持っていた拳銃から手を離すなんて馬鹿な真似はしなかったものの、片手でヘッドフォンをいじっていて注意はこちらに向いていない。



「ちかくに一般人がいる。ここを目撃されるのは互いに嫌だろ。それにこちらの任務は失敗したらしい。お前の兄貴は強いな。ジンだけじゃ負けたか……。ミント、引くぞ」

「え、あ、はい」



ヘッドフォン野郎は嫌味を言うことなく溜息をつくと、猫耳フードの謎の力でふたりとも消えてしまった。私はひとり、ぽかんとする。



「ああ、昼間の君」



そんな声が近くでして、そちらを見ればそこにはあの天使っぽい玉乃とかいう少年が立っていた。急いで短剣をしまう。彼は私のところに歩み寄りつつ周囲を確認するように見てから「大丈夫?」と言ってきた。なんだそれ。どういう意味だろう?



「さっき、異能者の二人に囲まれてたじゃん」

「いのうしゃ……?」

「なんだ、知らないの?」



黙っていれば天使っぽいのにその口調はまさに生意気な少年そのものだった。



「まあいいや。とりあえずこれあげるよ。今度からあの連中と戦闘になりそうだったらこれ使うといいよ」

「……なにこれ、手鏡? どういうこと?」

「聞くより経験して学んだ方がいいって。そんなことより君……、なんでこんなことになってるの? それにさっき、物騒なものを持ってるように見えたけど……」

「あんたこそ、なんでこんなところにいるの? 何者?」

「僕? 僕は……、極端に幸運体質な天使だよ」



2013/08/07 23:28



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