埋没の花


人気音楽バンドのボーカルをする九条綺羅というタレントがモデルをする雑誌が発売されたとのことで本屋やコンビニにはたくさんの人が集まっていた。それは花岸理貴と横山陽香が住む田舎でも同じことだった。



「本……、本……!」



理貴たちと共に同日発売の本を買いにきた後藤と、さらに付き添いの雄平とソラは混むレジをやっとのことで抜けた。



「私、あんまり知らないんだけどこの歌手って、人気なの?」

「なにいってるのよ後藤。超人気よ。九条綺羅のみならず、他のメンバーの石神八弥、二ノ宮奏也、黒田響太郎だってそれぞれ人気なのよ。それに彼らのつくる曲は独特で幻想的!」

「陽香の言う通りだ後藤! デビュー曲の『貴方の花』の『未来で出逢った貴方に恋をしてしまった』っていうフレーズから始まる曲なんて涙が出る!」



陽香と雄平がいっきに後藤に迫り、後藤は数歩下がって困りきった表情をした。



「陽香、それに雄平。ストップストップ」

「後藤さんびっくりしてるじゃん。二人とも離れてよ」



理貴とソラが急いで血圧が上昇していく二人を止めに入った。二人はしぶしぶ離れていくと、雄平が「そういえば」と手のひらをたたいた。



「『貴方の花』に出てくる恋した相手の特徴が理貴に似てる気がする……」



雄平の何気ない一言で理貴は驚いた。追い撃ちをかけるようにソラがまじまじと理貴を頭のてっぺんから爪先までじろじろと見る。理貴はつい後ずさった。



「ないない。理貴は特徴もないモブのような生徒よ。こんなごく普通の理貴を好きになるわけがないじゃない。あの九条綺羅が。というか、会ったこともないでしょう? たまたまよ」

「それもそうだな〜」

「お前ら俺に失礼なことを言ってるって気付けよな……」



意気投合する陽香と雄平。喋ることはなかったが、ソラもうんうんと頷いていた。後藤は苦笑いを浮かべている。



「ま、そんなことより本だよ!」



いままでの話題を、手を叩くと同時に吹き飛ばして後藤は雄平とソラの手を引っ張った。


それはまだ五月上旬の話。
花になりたいと願った人の復習劇に捲き込まれる前の話。そして異世界へ連れていかれる前の話……。平穏が、もうすぐで終わる。

  

2013/06/21 09:17



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